歩行速度に着目した運動学的分析 下腿・足部セグメントによる検討
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概要
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【はじめに、目的】様々な運動課題が運動をどのように決定しているかを明らかにしていくことは,理学療法を行う上で有用な情報となり得る.本研究では,これまで充分に検討されてこなかった歩行速度の違いに着目した課題を設定し,下腿・足部セグメントの運動学的な変化の特徴を捉えることとした.【方法】対象者は,整形外科的既往のない成人男性10 名とした.年齢は21-29 歳,身長は175.1 ± 4.8cm,体重は64.9 ± 5.3kg で,全員右利きであった.各歩行課題は,最速歩行(以下:fast),快適歩行(以下:preferred),遅い速度での歩行(以下:slow)の3 課題であり,試行前に十分な練習を行った.また,各歩行課題は,「できる限り速く」,「好む速さで」,「普段より遅い速さで」という口頭指示の下で行った.使用機器は,3 次元動作解析装置(カメラ8 台,120Hz),床反力計(Kistler 社製,120Hz)を用いた.マーカは,3 体節(右下腿,右後足部,右前足部)に計10 個を貼付した.貼付位置は,脛骨外側上顆,脛骨内側上顆,外果,内果の4 点で下腿セグメント,踵骨隆起,踵骨最内側,踵骨最外側の3 点で後足部セグメント,第1 中足骨頭,第5 中足骨頭,第5 中足骨底の3 点で前足部セグメントとし,各体節に座標系を設定した.解析は,オイラー角を用いて,下腿に対する後足部の角度(以下:HF/TB),後足部に対する前足部の角度(以下:FF/HF) を算出した.角度,床反力データは,各5 回の平均値を採用し立脚期を抽出した.その後,自然3 次スプライン補間を用い,全データのサンプル数が100%となるように正規化してパーセント表示とした.分析点は,床反力垂直分力成分を基準として,足部接地時点(以下:HS),第1 床反力最大値の時点(以下:Fz1),第1.2 床反力最大値間の最小値の時点(以下:Fz2),第2 床反力最大値の時点(以下:Fz3),足部離地時点(以下:TO)の5 点及び各点間とした.統計処理は,一元配置分散分析を行い,要因の主効果が認められた場合は多重比較検定を行った.その際,有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】対象者には,ヘルシンキ宣言をもとに,保護・権利の優先,参加・中止の自由,研究内容,身体への影響などを口頭及び文書にて説明し,参加への同意を得た.尚,本研究は茨城県立医療大学倫理委員会の承認を得て行った.【結果】歩行速度は,3 種類の速度間で差が生じた.床反力について,垂直成分では,fastのHS,Fz1 で増加した.前後成分では,fastのHS,Fz1 で後方成分が増加し,Fz3 で速度の増加に伴い前方成分が増加した.各点の角度では,速度の増加に伴いHF/TBのFz1,Fz2 で背屈角度が増大し,Fz3,TOで底屈角度が増大した.FF/HFのTOでは,slowと比してfastで底屈角度が増大した.各点間の角度変化量では,速度の増加に伴いHF/TBのHSからFz1 間で背屈量が増大し,Fz2 からFz3 間で底屈量が増大した.FF/HFでは,slowと比してfastのFz2 からFz3 間で底屈量が増大し,内反量が減少した.【考察】歩行立脚期では,衝撃の吸収と運動を継続するための推進力の生成が行われている.この際,下肢各関節の協調された運動により安定した前方移動が達成される.本研究は,3 種類の歩行速度を口頭指示で設定し,その特徴を下腿・足部セグメントの運動学的な変化に焦点をあてて捉えた.速度については差が認められ,設定には問題がないと考えた.歩行速度の増加は,HSからFz2 における受動的な荷重負荷を高め,またFz2 からTOにおける能動的な荷重負荷を高めており,より高い安定性が要求される.結果より,歩行速度の増加に対しては,Fz2 までは後足部のより早いタイミングでの背屈角度の増大で,Fz2 以降はより早いタイミングでの後足部の底屈角度の増大に加え,前足部の主に底屈角度の増大での対応を示した.これは,歩行立脚期の衝撃の吸収と推進力をより必要とされる歩行課題において,下腿・足部の対応もまた変化させることで安定性を保持していることが示唆されるものであり,歩行速度の違いに着目した特徴に繋がることが推察された.【理学療法学研究としての意義】本研究では,異なる歩行速度を設定した課題で下腿・足部の動きのタイミングや角度変化が異なることを示した.このことは,足部への理学療法介入を施行する際に歩行速度(課題)の考慮が重要であることを示すものである.
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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