同種造血幹細胞移植における移植前処置療法の違いが身体活動量、身体機能、健康関連QOLに与える影響
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概要
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【はじめに、目的】移植前処置として骨髄非破壊的前処置を行う移植(以下ミニ移植)が近年増加している。ミニ移植では、従来の骨髄破壊的前処置を行う移植(以下フル移植)に比べ、移植に伴う合併症が減少すると考えられているが、前処置療法の違いが身体機能や健康関連QOLに与える影響についてはあまり明らかになっていない。本研究では、前処置療法の強度の違いが身体機能、健康関連QOLに与える影響について検討した。【方法】対象は、2005年7月から2011年5月の間に神戸大学医学部附属病院腫瘍・血液内科で同種造血幹細胞移植を受け、移植前後の評価が可能であった40歳以上60歳未満の患者37名(フル移植17名、ミニ移植20名)とした。身体活動量の測定には生活習慣記録機ライフコーダExを用い、好中球生着時と退院時の一週間平均歩数を計測した。また、身体機能(握力、等尺性膝伸展筋力、6分間歩行距離)と健康関連QOL(SF-36v2)は移植前と退院時の2回測定した。握力と等尺性膝伸展筋力は左右の平均値を求め、SF-36v2では3つのサマリースコア(身体的側面(PCS)、精神的側面(MCS)、役割/社会的側面(RCS))を算出した。統計解析にはStudentのt検定、Wilcoxon検定、Fisherの正確確率検定を使用し、2群の身体活動量の変化値(退院時-生着時)と身体機能の変化率(退院時/移植前)、健康関連QOLの変化値(退院時―移植前)を比較した。また身体活動量変化値と身体機能変化率、健康関連QOL変化値のピアソンの相関係数を求めた。【倫理的配慮、説明と同意】対象者にはヘルシンキ宣言に沿って本研究の趣旨を口頭と書面にて説明し、同意を得たうえで実施した。【結果】フル移植患者は、ミニ移植患者に比べ、有意に若年(フル移植 vs ミニ移植;中央値48歳 vs 55歳, p<0.01)で移植後在院日数(中央値92日 vs 66日, p<0.01)が長く、急性移植片対宿主病(aGVHD)の発生率が高かった(52.9% vs 20.0%, p=0.05)が、性(男性58.8% vs 45.0%, p=0.51)や移植の種類(骨髄47.1%,臍帯血29.4%,末梢血23.5% vs 25.0%,50.0%,25.0%, p=0.33)には有意差は認めなかった。身体活動量の変化値は、2群間に有意差を認めなかった(1306±1436歩 vs 1933±1418歩, p=0.32)。身体機能の変化率は、握力(0.77±0.14 vs 0.91±0.11, p<0.01)で2群間に有意差を認めたが、等尺性膝伸展筋力(0.77±0.25 vs 0.88±0.18, p=0.12)と6分間歩行距離(0.95±0.15 vs 1.03±0.11, p=0.10)には有意差を認めなかった。健康関連QOLの変化値は、PCS(-4.8±15.3 vs 0.9±9.5, p=0.18)、MCS(-0.6±11.9 vs 3.7±8.5, p=0.21)、RCS(-8.1±17.0 vs -5.7±17.9, p=0.68)と3つのサマリースコア全てで2群間に有意差を認めなかった。また身体活動量の変化との相関では、握力(r=0.62, p<0.01)と6分間歩行距離(r=0.38, p=0.02)、PCS(r=0.33, p=0.05)の変化に有意な正の相関を認めたが、等尺性膝伸展筋力(r=0.29, p=0.08)とMCS(r=0.14, p=0.41)、RCS(r=-0.14, p=0.42)の変化には有意な相関関係を認めなかった。【考察】ミニ移植では、フル移植に比べ、移植前の身体機能を維持できる傾向にあった。また、移植後の身体活動量を高く保つと移植前後の身体機能や健康関連QOLの低下が小さかった。フル移植に比べ高齢の対象者であるにもかかわらず、ミニ移植患者の身体機能が維持できた背景として、GVHD等の移植関連合併症の影響が少なく、移植後の身体活動を積極的に行えたためと考える。今後は対象者を増やし、各疾患別に検討する必要がある。【理学療法学研究としての意義】フル移植では、超大量の化学療法や全身放射線照射を前処置として行うため適応は若年者や臓器障害を持たない患者に限定されている。そのためミニ移植は、フル移植に耐えられない患者に対する治療法として発展してきたが、近年若年者に対しても行われるようになってきており、疾患によっては移植後の再発率や生存率はフル移植と変わらないとする報告もなされている。今後ミニ移植のさらなる拡大が予想されるが、前処置の違いにおける身体機能と健康関連QOL変化を明らかにした本研究の結果は、治療方針の決定や機能予後予測において貢献できると考える。
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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