多発性硬化症患者の退院時歩行障害度に関連する因子について
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概要
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【はじめに、目的】多発性硬化症(以下MS)は寛解と再発を繰り返すことと、多彩な神経症状を示すことを特徴とする疾患である。障害される機能も多様であり、歩行障害を有する患者も多く、退院時の歩行障害度が転機先や退院後の生活に与える影響は大きい。MS発症後15年を経過した時点で補助具なしで歩行できる確率は50%程度であるという先行研究があるが、歩行障害度に関する研究は少なく関連する因子についても明らかにされていない。そこで、本研究ではMS患者における退院時歩行障害度を調査し、関連する因子を明らかにすることを目的とした。【方法】2009年8月から2012年8月までに当院神経内科に入院しリハビリテーションが施行されたMS患者のうち、退院時の歩行障害度が調査可能であった19名(男性5名、女性14名)を対象とした。調査項目は、初発症状出現時の年齢、初発症状が出現した時期からの罹患期間(月数)、調査期間内の入院回数(2009年8月から2012年8月までの3年間)、機能障害(錐体路、小脳、脳幹、感覚、膀胱直腸障害、視覚、精神)の有無、退院時歩行障害度とした。歩行障害度にはMcAlpine障害度分類を用いた。McAlpine障害度分類は第1度から第6度までに分類されており、第1度は制限なし、第2度は制限あり(短距離は介助や杖を用いずに歩行可能)、第3度は著明に制限されている(通常杖を使用)、第4度は家庭内で移動ができる(屋内で動くことはできるが非常に困難)、第5度は家庭内で移動不可(椅子または車いす使用)、第6度は寝たきりとなっている。解析方法は、歩行障害度と年齢、初発時年齢、罹患期間、入院回数との関係についてSpearmanの順位相関係数を算出した。また、歩行障害度により、独歩可能群(McAlpine障害度分類第1~2度)と、独歩困難群(McAlpine障害度分類第3~6度)の2群に分け、各機能障害との関係についてカイ2乗検定を行った。統計学的有意水準は危険率5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】全ての対象者に対し、研究内容を説明し同意を得た。【結果】対象者の年齢は18~72歳(平均43.1±11.6歳)、初発時年齢は17~71歳(平均35.2±14.7歳)、罹患期間は0~309カ月(平均101±89ヶ月)であった。調査期間内の入院回数は1~5回で、1回:9名、2回:6名、3回:1名、4回:2名、5回:1名であった。退院時の歩行障害度は第1度:3名、第2度:5名、第3度:6名、第4度:4名、第5度:1名、第6度:0名であり、独歩可能群が8名、独歩困難群が11名であった。また、機能障害は、錐体路障害:あり19名・なし0名、小脳障害:あり4名・なし15名、脳幹障害:あり4名・なし15名、感覚障害:あり17名・なし2名、膀胱直腸障害:あり8名・なし11名、視覚障害:あり8名・なし11名、精神障害:あり5名・なし14名であった。退院時歩行障害度は罹患期間と正の相関を認めた(r=0.62、p<0.01)。独歩可能群・独歩困難群の2群と各機能障害との間に有意な関連は認めなかった。【考察】先行文献では、MS患者の予後に関連する因子として、初発時年齢が報告されている。今回の研究では、退院時歩行障害度と初発時年齢との間に相関関係はみられず、退院時歩行障害度と罹患期間との間に強い正の相関関係が認められた。MS患者の経過は再発と寛解を繰り返すため、必ずしも罹患期間が長いことが機能障害の悪化に結びつくわけではないと考えられる。しかし、今回の研究で歩行障害度との相関が認められたことから、罹患期間の長さが、患者の活動量の低下につながり、歩行障害度に影響を及ぼしている可能性も考えられる。その間の再発回数の影響も考える必要があるため、今後の研究では再発回数の検討も必要である。また、歩行障害度と各障害機能の間には関連が認められなかった。下肢の麻痺や失調症状が歩行能力を低下させる要因となることを臨床において経験する。今回の結果で、歩行障害度は障害機能の有無のみとは関連がみられなかった理由として、各障害機能の障害の程度による影響が大きい可能性も考えられる。今後の研究では各障害機能の障害度の検討も必要である。【理学療法学研究としての意義】MS患者の退院時歩行障害度と関連のある因子が示されたことにより、入院早期から退院時の歩行障害度をふまえて、リハビリテーションプログラムの設定や退院後の環境を設定することにつなげていける可能性がある。
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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