臨床実習における指導者継続の意欲に影響する要因
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概要
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【はじめに、目的】当科では、クリニカルクラークシップを導入した臨床実習を10年程前より継続している。しかし、臨床実習指導者(指導者)にとっては、学生指導の負担感に比べ、指導者の満足感や充実感が低く、指導者継続に対する抵抗感も生じている。今回、臨床実習に対する指導者の主観的評価をもとに指導者継続の意欲に影響する要因を抽出し、指導者や実習施設にとって、より有益な臨床実習を進めていくためのポイントを明らかにすることを目的とした。【方法】アンケート調査の対象は、平成24年度に指導者を経験した理学療法士16名とした。これまでと同様に、当科での臨床実習の進め方は、1名の学生に対し指導者2名(午前1名、午後1名)が担当する複数担当制およびクリニカルクラークシップを意識した構成を継続した。さらに、平成24年度から、学生を助手として積極的に診療チームに参加させるために、学生の評価担当者(実習責任者)と指導者の区別、診療補助・検査測定・記録など各項目の実施状況を確認していくためのチェックリストの導入、日常業務が終了してからの学生に対するフィードバック時間の制限、学生が作成した模擬診療録を通したサマリーチェック(午前・午後ともに週1回)の廃止、午後の指導者と学生が参加する実習責任者との症例検討の追加を行った。アンケート調査は5項目の選択式設問とし、実習終了時に実施した。設問項目は、1)指導者の学習効果について、「普段より勉強になった」を5点、「普段より勉強にならなかった」を1点、2)診療の質について、「普段より良い治療ができた」を5点、「普段より良い治療とならなかった」を1点、3)指導者の負担感について、「担当は手間でなかった」を5点、「担当は手間であった」を1点、4)実習全体の満足感について、「学生が居て良かった」を5点、「学生が居ない方が良かった」を1点、5)指導者継続の意欲について、「是非やりたい」を5点、「できればやりたくない」を1点とした。統計学的検討では、担当区分(午前・午後)、指導者の臨床経験年数(経験年数)、アンケート調査5項目について各変数間の相関関係をスピアマンの順位相関係数、指導者継続の意欲に影響する要因の抽出には、指導者継続の意欲を従属変数としたステップワイズ法による重回帰分析を用いた。なお、統計ソフトはR2.8.1を使用し、有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】臨床実習指導および実習指導者への調査は通常業務の一環として実施しており、報告については所属長の承認を得た。【結果】各変数について、担当区分は午前8名、午後8名、経験年数の中央値(最小値-最大値)は5(3-8)年目であった。アンケート調査の5項目の中央値(25%値-75%値)は、1)指導者の学習効果は4(3.75-5)点、2)診療の質は3(3-4.25)点、3)指導者の負担感は2.5(2-4)点、4)実習全体の満足感は、4(3-4.25)点、5)指導者継続の意欲は4(3-4)4点であった。変数間の関係では、指導者継続の意欲と経験年数(ρ=0.54)、指導者の学習効果(ρ=0.57)、診療の質(ρ=0.61)、指導者の負担感(ρ=0.74)、実習全体の満足感(ρ=0.84)との間、実習全体の満足感と指導者の学習効果(ρ=0.59)、診療の質(ρ=0.78)、指導者の負担感(ρ=0.81)との間、指導者の負担感と指導者の学習効果(ρ=0.53)、診療の質(ρ=0.76)との間、経験年数と担当区分(ρ=0.66)との間に有意な相関関係を認めた(p<0.05)。重回帰分析の結果では、実習全体の満足感(偏回帰係数0.88、標準化回帰係数0.86、p<0.05)のみが有意な変数として抽出され、決定係数(R²)は0.73となった。【考察】今回、学生を助手として積極的に診療チームに参加させながら、指導者の充実感も得るための手がかりとするために、臨床実習の進め方の工夫と指導者の主観的評価を実施した。今回の結果から、重回帰分析では実習全体の満足感(学生が居て良かった)の向上が指導者継続の意欲に最も影響する要因として抽出され、抽出された実習全体の満足感については、指導者の負担感や指導者の学習効果、診療の質も影響していることが示唆された。診療の質や指導者の負担感は他の項目に比べ低値であり、これらの項目を改善していくことが、指導者や実習施設にとって、より有益な臨床実習を進めていくため手がかりとなる可能性が考えられた。【理学療法学研究としての意義】実習施設では、診療の質の担保や利潤性低下など多くの問題を抱えている。このような現状を踏まえ、臨床実習では指導者自身もステップアップできたと実感できるような工夫を検討し、取り入れていくことに意義があると考える。
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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