ES細胞由来神経幹細胞の分化に対する温熱刺激の影響
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概要
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【目的】神経幹細胞は,自己増殖能と神経系細胞へ分化する多分化能をもち,ES細胞(胚性幹細胞),iPS細胞(人工多能性幹細胞)より分化誘導可能な細胞である。未分化な幹細胞より分化誘導した神経幹細胞は,神経疾患治療研究および神経組織再生のための移植細胞として利用されている。調製した神経幹細胞を,臨床応用に向けて目的とする細胞に安定的に分化誘導し有用な細胞にするためには,培養条件を検討することが重要となる。我々は,第44 および45 回日本理学療法学術大会で,マウスES細胞から分化誘導・調製した神経幹細胞に対して温熱刺激を加えて,高温条件で温度依存的な細胞死誘導による細胞増殖抑制が起こることを報告し,第46 回大会では,サル神経幹細胞での同様の影響が起こることを報告した。本研究では,神経幹細胞に対して温熱刺激した後に分化誘導して,温熱刺激条件がその後の細胞分化に与える影響について検討した。【方法】我々が確立したNeural Stem Sphere(NSS)法によって,マウスES細胞から分化誘導・調製した均質な性質をもつ神経幹細胞を,Neurobasal/B27 培地に塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を加え(以下,増殖条件)増殖させた。増殖した神経幹細胞は,37℃(Control),40℃,42℃,43℃に加温した恒温槽で20 分間温熱を加えた。温熱刺激後,24 時間増殖条件で培養した後,DMEM/F-12 培地にN2 Supplementを加えた(以下,分化誘導条件)培地に交換して,6 日間培養を行った。細胞性質の評価として,温熱刺激後の細胞の免疫蛍光染色および回収した細胞サンプルからmRNA抽出してリアルタイム RT-PCR法による遺伝子発現解析を行った。解析遺伝子は,神経系外胚葉マーカーSox1,神経幹細胞マーカーNestin,Musashi-1,Necdin,神経幹細胞関連マーカーHes1,Hes3,Hes5,神経前駆細胞マーカーPax6,FABP7,神経細胞マーカーMAP2,アストロサイトマーカーGFAP,オリゴデンドロサイトマーカーMBPとした。【倫理的配慮】動物実験については,日本学術会議策定が定めた「動物実験の適切な実験に向けたガイドライン」および所属機関の動物実験指針を遵守した。尚,本研究は首都大学東京研究安全倫理委員会の承認を受けて実施された。【結果】温熱刺激後の分化誘導により,37℃条件の神経幹細胞の増殖は止まり,神経細胞およびグリアが分化することを免疫蛍光染色で確認した。この分化誘導の過程で,神経幹細胞マーカーおよび神経前駆細胞マーカー遺伝子の発現が経時的に減少したのに対して,グリアマーカーは増加した。また,神経細胞マーカーは分化誘導2 日目に最高になり,40℃および42℃条件でも,同様の結果が得られた。一方,43℃条件では37℃条件と比較して,分化誘導2 日目に神経細胞,神経幹細胞マーカー,神経幹細胞関連マーカー,神経前駆細胞マーカーの発現が,有意に低下した。また,分化誘導6 日目では,アストロサイトマーカー,オリゴデンドロサイトマーカーの有意な低下が認められた。【考察】第44 回および45 回本大会で,神経幹細胞を温熱刺激後,増殖条件下で培養したとき,40℃および42℃で刺激した細胞では37℃刺激の細胞と同様に対数増殖するのに対し,44℃刺激の細胞はほとんど死滅したことを報告した。さらに,43℃刺激の細胞ではアポトーシスによる細胞数の減少と細胞増殖抑制が起こったが,神経幹細胞としての基本的性質を維持していたことも報告した。一方,本研究で,温熱刺激後分化誘導条件下で培養したときには,43℃刺激の細胞は,神経細胞マーカー遺伝子が高発現する分化早期(分化誘導2 日目)では,神経細胞マーカーの発現量が37℃と比較して有意に低下することを明らかにした。また,グリアマーカーが高発現する分化がすすんだ時期(分化誘導6 日目)では,グリアマーカーの発現量の有意な低下が認められることも見出した。この結果は,高温刺激が,各神経系マーカー遺伝子の発現が増大する時期においてその発現を抑制することを示すものである。すなわち,高温刺激が神経系細胞への分化誘導抑制ストレスとして機能し,増殖期の一時的な高温刺激の影響が,その後の分化過程にも残存することを示唆する。今後,さらに分化に対する細胞応答を検討して,神経幹細胞の分化に対する有用な刺激条件を検討する必要と考える。【理学療法学研究としての意義】本研究は,理学療法士として臨床場面での温熱刺激の利用が,再生医療分野において安全で有用なアプローチであることを検証する上で重要となる。
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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