足関節不動化モデルラットに対する運動が不動に由来する痛みにおよぼす影響 −前肢および対側後肢を用いたトレッドミル走行の効果−
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
【はじめに】これまでに,難治性複合性局所疼痛症候群や線維筋痛症,リウマチ性疾患といった慢性痛を呈する疾患に対し,患肢や全身の運動療法を行うと痛みの軽減効果が得られるとした報告が数多くなされている.また,小動物を用いた基礎研究においても神経障害性疼痛や筋炎のモデルラットに対してトレッドミル走行を行うと同様な効果が得られており,運動療法が痛みの軽減効果をもたらすことは明らかである.しかし,骨折等を受傷した場合,患肢がギプス固定や創外固定等により不動化されると患肢の運動は困難となり,健肢の機能維持や向上を目的とした運動療法のみ実施されるのが通常である.患肢の不動化はそれ自体が痛みを惹起または助長する一要因になることが明らかにされつつあるが,患肢に対する運動療法が実施できないケースにおいてはその対策がとられていないといえる.ただ,近年の研究によれば全身の運動は末梢のみならず中枢神経に作用して痛みの軽減効果をもたらすとされており,この点を踏まえて考えると,健肢に対する運動が不動化された患肢の痛みにも何らかの影響をおよぼす可能性はある.そこで本研究では,一側後肢をギプスで不動化したモデルラットに対して前肢および対側後肢を使ったトレッドミル走行を負荷し,不動に由来する痛みにおよぼす影響を検討した.【方法】実験動物には8 週齢のWistar系雄性ラット30 匹を用い,これらを8 週間通常飼育する対照群(n=10),ギプスにより右足関節最大底屈位で後肢を不動化する不動群(n=10),不動群と同じ処置を行ったうえで運動を負荷する運動群(n=10)の3 群に無作為に振り分けた.運動群に負荷する運動には小動物用トレッドミル(シナノ製作所製)を使用し,前肢および対側後肢によるトレッドミル走行を負荷した.なお,運動速度は毎分15mとし,1 日30 分間の運動を週5 日の頻度で実施した.実験期間中は週1 回,機械的刺激に対する痛み反応の評価として4gおよび15gのvon Frey filamentで足底部を刺激した際の逃避反応の出現回数をカウントした.また,運動群が実施したトレッドミル走行がどの程度の負荷になっているか,そして1 回のトレッドミル走行が不動に由来する痛みに対して即時に影響をおよぼすか否かについて検討した.具体的には,不動4 〜6 週目の運動群に対して上記と同様の方法でトレッドミル走行を負荷し,その直前,直後の直腸温および尾部から採取した血液の乳酸濃度を測定し,さらに機械的刺激に対する痛みの評価を行った.【論理的配慮】本研究は長崎大学動物実験委員会が定める動物実験指針に基づき,長崎大学先導生命体研究支援センター・動物実験施設において実施した.【結果】運動群において,運動直後の直腸温は運動直前のそれより有意に高値を示したが,血中乳酸濃度および機械的刺激に対する逃避反応の出現回数は運動直前と直後の間に有意差を認めなかった.次に痛み反応の評価の結果をみると,不動群の4gおよび15gのvon Frey filament刺激に対する逃避反応の出現回数は不動2 週目から対照群に比べ有意に高値を示し,その症状は不動期間に準拠して顕著となった.一方,運動群では不動群と同様に逃避反応の出現回数は対照群に比べ有意に高値を示したが,不動4 週目以降はそれ以上に顕著とならず,不動6 週目以降では不動群に比べ有意に低値を示した.【考察】運動群に負荷した前肢および対側後肢を使ったトレッドミル走行は,他の研究に類を見ないためラットに対してどの程度の負荷になったのかは不明であるが,運動直後に直腸温の上昇を認めたことから十分な負荷になっていたと思われる.その運動は,不動群および運動群で認められた不動に由来するアロディニアや痛覚過敏に対して即時には影響をおよぼさなかったが,長期間にわたって継続することで痛覚過敏の軽減効果が認められた.今回はその効果のメカニズムの解明にまでは至っていないが,先行研究を参考にすると,運動によって内因性オピオイドが誘導され,これが下行性疼痛抑制系を賦活化した可能性が考えられる.今後はその点についてさらに検討を加え,不動化された患肢以外に対する運動が痛みにおよぼす影響を明らかにしていきたい.【理学療法学研究としての意義】本研究は,不動化された患肢以外による運動療法が患肢の痛みに対して軽減効果をもたらす可能性を示唆した.実際の臨床においても,患肢以外の運動は急性期から実施可能であるケースが多いため,今回の結果は臨床応用への展望が見込めるものと考えられ,理学療法研究としての意義はある.
- 公益社団法人 日本理学療法士協会の論文
公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
- 療養型病院における廃用症候群の予後予測
- 髄腔内バクロフェン治療(ITB)後の理学療法:―歩行可能な症例に対する評価とアプローチ―
- 理学療法士の職域拡大としてのマネジメントについて:―美容・健康業界参入への可能性―
- 脳血管障害患者の歩行速度と麻痺側立脚後期の関連性:短下肢装具足継手の有無に着目して
- 健常者と脳血管障害片麻痺者の共同運動の特徴:―異なる姿勢におけるprimary torqueとsecondary torqueの検討―