在宅生活を送る重症心身障がい児・者に対する「LIFE:生活機能評価表」の試行
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概要
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【はじめに、目的】重度重複障がいを有する肢体不自由児・者(以下,重症児者)に対する経時的評価尺度として開発が進められている「Life Inventory to Functional Evaluation:生活機能評価(以下,LIFE)」を,在宅生活を送る重症児者の評価にも応用できるか試験的に調査した.また,現在肢体不自由児者の評価に一般的に使用されている経時的評価尺度である「Gross Motor Function Measure:粗大運動能力尺度(以下,GMFM)」を同時期に評価し,関係性および相違点を調査した.訪問リハビリテーション(以下,訪問リハ)を進める上でLIFEを使用する意義を検討した.【方法】対象は当ステーションを利用している児童5名(平均年齢7.6±2.4歳,男児3名,女児2名,診断名は脳性麻痺が3名,先天性ウイルス感染後遺症が1名,染色体異常が3名,「Gross Motor Function Classification System:粗大運動能力分類システム(以下,GMFCS)」ではLevel4が1名,Level5が4名,大島分類では分類1が4名,分類2が1名,超重症児(者)・準超重症児(者)の判定基準では,超重症児が2名,準超重症児が1名).対象者に対し,同一評価期間にLIFE,GMFMを実施した.LIFEに関しては直接観察による評価と担当者からの聴取による評価を併用した.GMFMに関しては訪問リハ中に運動の様子を直接確認して評価した.LIFEは開発中の評価尺度のため(2012年11月時点),研究期間中に公開された最新の評価表(version 0.5.5,2012年8月20日公開)を使用した.評価期間は2012年7月の1ヶ月間とし,LIFEの結果に関しては2012年7月時点に発表されていた旧バージョン(version 0.5.2)の採点結果を基に,version0.5.5の評価表に変換した.【倫理的配慮、説明と同意】今回の事業報告に関して当ステーション管理責任者の同意を得た.本研究には利用者等の個人情報を特定できる内容は含まれていない.【結果】すべての児童に対し,LIFE,GMFMを評価に用いることが可能だった.各評価の1回所要時間はLIFEが30~60分,GMFMが5~30分程度だったが,LIFEに関しては担当者への聴取およびカルテからの情報収集で大部分の項目が採点可能だった.GMFMに関しては,原則観察での評価のため訪問リハの時間を使用する必要があった.GMFMでは10点未満の児童が3名で,運動機能が著しく制限されているGMFCSでLevel5に該当する重症児者に対し反応性が不良だった.LIFEでは最も得点の低い児童においても40点台,最も得点の高い児童は130点台となり,すべての児童で5点以上の差が見られた.GMFMとLIFEで高得点を獲得した上位3名は一致しており,GMFMとLIFEの得点におけるspearmanの順位相関係数p=0.9だった.【考察】LIFEはGMFMでは大半の項目に反応を示さない児童に対し反応した.LIFEでは器具や人の支援,その他の環境支援の中で達成される機能を含めて「生活機能」として評価するため,生活場面に直接介入する訪問リハの場面では,長期的な介入方針の検討や介入効果の検討に関して活用できる印象を受けた.また,LIFEは重症児者に対して使用した場合GMFMよりも1回評価の所要時間は長かったが,直接的な介入時間を利用しなくても評価ができるという利点があるため,時間や介入頻度の制約がある場合は効率的な評価になり得ると考えられた.LIFEとGMFMの結果は相関する傾向が示唆されたため,LIFEを重症児のGMFMに当たるものとして使用していける可能性があると考えられた.LIFEに関して今後,評価項目の内容的妥当性と他の経時的評価尺度との基準関連性妥当性が検討されていくことを期待する.【理学療法学研究としての意義】今回の研究において,LIFEが医療的整備の充実した病院・入所施設などの機関のみでなく,在宅場面での生活を基にしても簡便に評価できることが確認された.LIFEは現在開発中であり,今後大規模調査により妥当性・信頼性が検討されていく予定だが,今回の研究のように在宅場面や訪問リハでの調査結果も使用していくことで研究の対象を拡げていけると考えられる.海外でも重症児者の評価に関する理学療法研究は少なく,LIFEの研究を日本全国の施設が協同して進めていくことで世界基準として使用可能な評価を日本から発信していくことが可能だと考えられる.
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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