反復性膝蓋骨脱臼が歩行時膝関節運動に与える影響
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概要
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【はじめに、目的】反復性膝蓋骨脱臼(以下、RPD)は軽微な力で容易に膝蓋骨脱臼を繰り返し、再脱臼を繰り返すことで日常生活動作においても障害を起こすことが多い。しかしRPDに関する研究はほとんどが膝蓋骨の形態など解剖学的なものであり、脱臼や脱臼不安感が生じる荷重下での動作解析を報告したものは少ない。そこで本研究では不安感が生じる歩行動作に着目し、不安感の出現やRPDが膝関節に与える影響を歩行時膝関節運動から検討することを目的とした。【方法】被験者はRPDと診断を受けた女性6名(平均年齢18.6±4.4歳)のRPD群、及びRPD群と同等の属性をもち、下肢関節に整形外科的疾患を有さない健常女性6名(平均年齢21.5±1.6歳)の対照群であった。課題動作は10mの歩行路を被験者に至適速度で歩くこととした。歩行中の運動学データは、脛骨内外旋や前後移動量を含めた膝関節微細運動が測定可能なPoint Cluster法を参考に、赤外線反射マーカーを骨盤、両下肢に計26個身体に貼付した。運動学データは赤外線カメラ6台からなる三次元動作解析装置VICON612(Vicon社製)を用いて計測し、同時に床反力計4基(AMTI社製)を用いて運動力学データを計測した。得られたデータを基にWorkstation(Vicon社製)、Bodybuilder(Vicon社製)を使用し、Point Cluster法を用いて膝関節屈伸、内外反角度、脛骨内外旋角度、脛骨前後移動量を算出した。また逆動力学解析により内部膝関節屈曲・伸展モーメント、外部膝関節内反・外反モーメントを算出した。解析データは静止立位からの変化量を求め、1歩行周期を100%に正規化した。各パラメータの値は3歩行周期の平均値とした。統計学的解析は統計ソフトウェアSPSSVer.19.0 for Windows(エス・ピー・エス・エス社製)を用い、RPD群と対照群との比較には対応のないt検定を用いた。なお有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は当大学院保健学研究科倫理審査委員会の承認を得て行った。被験者は自らの意思に基づき本研究に参加し、測定前に研究の意義、目的について十分に説明し、口頭及び文書による同意を得た後に実施した。【結果】膝外反角度は、立脚初期(14~20%)、遊脚終期(80~91%)でRPD群が対照群と比較して有意に増大した(p<0.05)。脛骨内旋角度は、立脚初期~立脚中期(8~30%)、遊脚期(61~79%、82~86%)でRPD群が対照群と比較して有意に増大した (p<0.05)。しかし、膝関節屈曲伸展角度、脛骨前後移動量は両群間に有意な差は認められなかった。また立脚期における内部膝関節伸展モーメント、外部膝関節内反モーメントのピーク値も両群間に有意な差は認められなかった。【考察】膝蓋骨の脱臼素因の1つに外反膝があるが、本研究において荷重下(立脚期)、非荷重下(遊脚期)ともに外反角度の増大を認めた。RPDでは動的状態の歩行においても膝関節は外反し歩行時に脱臼リスクが増大していると考えられ、RPDの歩行時脱臼不安感は膝関節外反角度増加が要因となる可能性がある。またRPDの脛骨内外旋運動に関して、非荷重下膝伸展運動においては膝蓋骨の外方偏移を防ぐために正常とは異なる伸展に伴う脛骨内旋運動が生じることが先行研究で示されている(森ら、1998)。本研究では立脚期における脛骨内旋角度の増大を認め、さらに膝伸展運動は正常関節運動と同様であったことから、歩行立脚期のような荷重下においても膝蓋骨外方偏移を防ぐ伸展に伴う脛骨内旋運動が生じている可能性が考えられる。膝伸展に伴う脛骨内旋運動のような非生理的回旋運動は膝蓋大腿関節、脛骨大腿関節へのshearing stressを増大させ、2次的に関節構成体の損傷を引き起こすかもしれない。本研究から、RPDは脱臼リスクの高い歩行と、脱臼を防ぐ代償運動から膝関節へのストレスを増大させる歩行を兼ねていることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究の意義は、RPDの歩行時膝関節運動の特徴を明らかにしたことである。またRPDは内側膝蓋大腿靭帯再建術などの観血的治療が適用されることが多いが、受傷から手術までの保存的治療期間での理学療法において膝外反角度増大や伸展に伴う脛骨内旋運動を考慮する必要性も示唆された。
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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