臨床実習における到達度と社会的スキルに関する検討
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概要
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【目的】<BR> 理学療法士にとって,対人関係を良好にし,信頼関係を築くための社会的スキルは重要であり,社会的スキルの向上は,理学療法教育における重要な教育目標の一つであろう。本研究は,臨床実習における経験が社会的スキルの向上にどのように影響するか,また学生の社会的スキルと臨床実習到達度にはどのような関連があるかについて検討することを目的とした。<BR>【方法】<BR> 本学理学療法学科4年生42名のうち,調査表の回収が得られた38名(男性25名,女性13名)を分析対象とした(回収率90.5%)。本学4年次に実施される総合臨床実習は前半7週間のフィールドAと,後半7週間のフィールドBにより構成される。<BR> 社会的スキルの調査は,総合臨床実習フィールドB開始前(フィールドA終了後)とフィールドB終了後に, Kikuchi's Scale of Social Skills 18 items(以下,Kiss-18)を使用して調査した。Kiss-18の下位項目として,菊池(1993)の抽出した「問題解決」「トラブル処理」「コミュニケーションスキル」の3因を用いた。<BR> 臨床実習到達度については,各実習施設の実習指導者が記入する「臨床実習到達度チェックリスト(以下,チェックリスト)」と,本学で総合臨床実習前後に実施している客観的臨床能力試験(以下,OSCE)の得点を用いた。チェックリストは,臨床実習で経験して欲しい基本的な臨床スキルを列挙した42項目から構成され,各項目の到達レベルを3段階で判定するものである。本研究では,この到達レベルを1~3点に換算して用いた。<BR> データ分析にはSPSS16.0Jを使用し,総合臨床実習フィールドB前後のKiss-18の比較には,Wilcoxon符号付順位検定を用いた。Kiss-18とチェックリスト,OSCE得点の相関分析にはSpearmanの順位相関を用い,有意水準は5%とした。<BR>【説明と同意】<BR> 対象者には,調査表の配布に先立ち,Kiss-18の調査は研究目的であり,調査表の提出は任意であることを説明した。また,本調査に参加しない場合にも何ら不利益が生じないことを説明し,調査結果から個人が特定できない配慮を十分に行った。<BR>【結果】<BR> Kiss-18の総得点平均は,フィールドB開始前が52.2±10.0点であり,フィールドB終了後が57.1±9.8点であった。フィールドB前後の比較では,実習後は有意に高い得点を示した(p<0.01)。Kiss-18の下位項目別の分析でも,すべての下位項目で実習後が有意に高い得点であった(問題解決スキル:p<0.01,トラブル処理およびコミュニケーションスキル: p<0.05)。<BR> Kiss-18と臨床実習到達度の相関では,フィールドB開始前(フィールドA終了後)のKiss-18総得点は,フィールドAチェックリストとの間に相関があり(r=0.36,p<0.05),フィールドB終了後のKiss-18総得点は,フィールドBチェックリストとの間に相関があった(r=0.5,p<0.01)。一方,OSCEの得点は実習前後ともに,Kiss-18およびチェックリストとの間に有意な相関はなかった。<BR>【考察】<BR> 本研究では,フィールドBの臨床実習前後で,Kiss-18の総得点に有意な差があり,特に問題解決スキルの向上は顕著であった。臨床実習では,学生が患者,実習指導者,スタッフなどの様々な人間関係の中で,理学療法を経験することで,社会的スキルを向上させる機会を持つと考えられる。<BR> また,Kiss-18総得点は,それぞれの調査の直前に実施された臨床実習における到達度チェックリストとの間に有意な相関を示した。つまり,Kiss-18で測定される社会的スキルは,直前の臨床実習における臨床スキルの経験・到達レベルを反映している。一方,OSCEは,情意領域も含め評価できる試験ではあるとされているが,今回の調査の結果からは, Kiss-18とは別の側面を評価しているということが示唆された。<BR> 今後は,長期的に調査を継続し,社会的スキルの継時的変化を検討するとともに,臨床実習でのどのような経験が社会的スキルの向上を引き起こす要因となるか,検証していきたい。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 本研究において,社会的スキルと臨床実習到達度に相関があり,臨床実習での経験が社会的スキルの向上に関連していることが示された。本研究の結果より,臨床実習における教育効果が明らかになり,臨床実習のあり方について示唆を得ることができた。
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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