脊髄損傷異所性骨化モデルマウスにおける超音波照射の影響(第1報)
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概要
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【目的】異所性骨化は,脊髄損傷や脳血管障害の麻痺部に多く出現し,完成された異所性骨を外科的に摘出するしか方法はなく,また,摘出後も再発する例も多い.このように,確実な治療法が確立されていないのが現状である.この異所性骨化は,疼痛や関節可動域の制限を引き起こし,術後の機能障害やADL自立の妨げとなる要因として重要である.この,異所性骨化の発生を如何に抑制し治療していくか,その方法として侵襲がなく負担の少ない治療法として超音波療法の効果を検討していきたい.これまでの私たちの研究では,異所的に骨を発生させる骨形成タンパク質(Bone Morphogenetic Protein:BMP)をマウスに移植し異所性骨化モデルマウスを作成し,超音波療法の効果を検討してきた.本研究では,異所性骨化の発生条件により近づけるため,脊髄損傷のモデルマウスにcrude BMPを移植した脊髄損傷異所性骨化モデルマウスを作成し,超音波療法の効果を明らかにしていくことを目的とした.<BR>【方法】対象は,ddYマウス(雄,6週齢)11匹を用いた.マウスをジエチルエーテル吸入による麻酔下におき,背部をイソジン消毒し剃毛した後,脊柱に沿い正中切開し,第8胸椎を露出させた.不全麻痺を作成するため,先端が直径約2mmのプラスチック棒を当て,そこに3gまたは5gの金属錘を2~5cmの高さから落下させ損傷を起こさせた(weight drop法).麻痺の程度は改定MFS(hindlimb motor function score:MFS)を用い確認した.脊髄損傷術後,7日目にBMPを移植した.移植は,マウスをジエチルエーテルで吸入麻酔した後,手術台上で腹臥位に固定し,術野を剃毛,消毒し,皮膚と筋膜を切開した後,ハムストリングス内に移植母床を形成し,crude BMPの粉末3mgをNo.5ゼラチンカプセルに入れたもの(BMPカプセル)を移植した.その後,ナイロン糸で筋膜,皮膚をそれぞれ縫合して手術を終了とした.BMPカプセルは,1匹のマウスにつき両側大腿に移植した.超音波照射は,伊藤超短波社製US-700を用い,移植術翌日から照射した.超音波照射用マウス固定台に,ジエチルエーテルで吸入麻酔したマウスを固定,照射部位を剃毛,治療用ジェルを塗布し超音波導子を設置した.導子は皮膚に密着させ,手術翌日より3週間にわたり毎日1回,10分間,照射率20%,周波数3MHz,照射強度0.1W/cm<SUP>2</SUP>,固定法にて照射した.なお1肢を超音波照射(US+),他肢を非照射(US-)とした.移植3週後に,マウスを致死量のジエチルエーテル吸入により安楽死させ,両下肢を股関節にて離断,軟X線像により,新生骨の位置を確認しながら摘出した.この組織の灰分重量を測定することで,形成された異所性骨の重量を比較検討した.統計学的処理として,灰分重量は対応のないT検定を,MFSはBMPカプセル移植時の値をMann Whitney U testを用い,危険率5%未満を有意とした.<BR>【説明と同意】本研究は,名古屋大学医学部動物実験倫理委員会,愛知医療学院短期大学倫理委員会の承認を得て行った.また,平成20年度科学研究費補助金(若手研究 課題番号20800068)の助成を受け行った.<BR>【結果】形成された異所性骨の灰分重量は(平均値±標準偏差),US+で3.4±1.4mg,US-で6.3±2.5mgであり,US+のほうが有意に骨形成量は低値であった(p<0.01).また,BMPカプセル移植時のMFSには有意差はなかった.<BR>【考察】本実験では,特に問題になりやすい脊髄損傷による麻痺を発生させ,麻痺肢にBMPを移植することで,より臨床像に近いモデルマウスを作製することが可能となった.さらに超音波を照射することにより,BMPにより発生する新生骨の形成量は抑制される結果となった.BMPによる新生骨の発生は,内軟骨性骨化と呼ばれているが,詳細は未だ明らかではない.しかし,BMPには成熟筋を幼若化させ,さらに骨組織へと再分化させる作用があると考えられている.本実験では,BMP移植直後より超音波を照射しており,どの過程に超音波が作用しているかは明らかではないが,異所性骨化が発生する可能性が高い場合,予防的に利用することによりその形成を抑制できる可能性を示している.また,超音波の照射条件は,低強度であり,その作用は温熱による効果ではないと考えられる.一般的に骨癒合を促進させるために照射される超音波は,本実験で行った照射条件よりさらに低強度であることから,骨形成と超音波の照射強度には何らかの関連性があり,注意深く照射する必要性があると考える.<BR>【理学療法学研究としての意義】本研究は,治療や予防が非常に困難となる異所性骨化に対する新たな見解を示すものである.また,理学療法士が臨床で使用している超音波治療器を用いて,新たな適応を示唆している.さらに,骨形成に対する超音波療法の至適照射量や危険性に対する研究の,一参考となりうる.
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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