腰部ベルト装着時の静的・動的立位バランスの特性:健常高齢者による分析
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概要
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【目的】<BR> 本研究では、腹部の圧力を高め、腰部の脊椎安定性を高めるために簡易的な腹部ベルトを使用し、健常高齢者の立位バランスがどのように変化するかに注目した。重心動揺計を用いて、自然立位時の変化を調べる静的バランスと自発的に重心を制御する動的バランスの違いを明らかにすることで、腹部ベルトの効果の検討を目的に実施した。<BR>【方法】<BR> 対象は、神経学的・下肢に整形外科的な既往のない健常高齢者14名(61-84歳、平均年齢70.0±6.8歳)とした。<BR>測定姿勢は、腹部に何も巻かない通常の立位姿勢(ベルトなし姿勢)と対象の腹囲に合った腹部ベルト(MAXBELT me3)を巻いた立位姿勢(ベルト有り姿勢)の2通りの立位姿勢を選択した。腸骨稜をベルトの中間とし、ベルトを止める部分を腹部中央としベルトを巻いた。ベルトなし・有り姿勢の2種類の姿勢で、重心動揺計(アニマ社製 G-5500)で静的バランスと動的バランスを測定した。静的バランスのサンプリング周期は20Hz、サンプリング時間は開眼/閉眼各30秒間とした。一方、動的バランスは開眼にてサンプリング周期100Hz、サンプリング時間は60秒間とした。動的バランスの測定時は、前後左右に各方向とも両側足底面を離床させず接地位置を動かさない範囲で最大限の重心移動を要求し、各方向で10秒間一旦停止することを求めた。静的・動的バランスの間には十分な休息をとらせ、ベルトなし・有り姿勢の順番はランダムとしクロスオーバーさせた。<BR> 統計処理として、ベルトなし姿勢とベルト有り姿勢の2群に対して、両群の比較はWilcoxonの符号付順位検定を用いて分析した。分析にはSPSS ver15.0を用い、有意水準5%とした。<BR><BR>【説明と同意】<BR> 全対象者に対して、事前に本研究の目的と方法を説明し、研究協力の同意を得た。<BR>【結果】<BR> 静的バランスでは総軌跡長、矩形面積、外周面積、実効値面積、単位軌跡長、X方向最大振幅、Y方向最大振幅の開眼、閉眼ともにベルトの有無で有意差が認められなかった。動的バランスではベルトなし姿勢よりもベルト有り姿勢において矩形面積、外周面積、実効値面積、Y方向最大振幅でベルト有り姿勢のほうが有意に大きかった。<BR>【考察】<BR> 腹部を簡易的な腹部ベルトで巻くことによって、腹部の圧力を20~40%高めることができるとされている。今回、ベルトの「有り」「なし」で静的・動的立位バランスを計測した結果、静的バランスでは重心の移動範囲に有意差は認められなかったが、動的バランスではベルト有り姿勢で有意に矩形面積・外周面積・実効値面積・Y方向最大振幅の項目が増加し、重心の移動範囲が拡大した。このことは、ベルトで腹部の圧力を高めたことで腹部を中心として脊柱の固定性が高まり、腹筋群に適度な圧力を与えることができ、姿勢制御を要求した動的バランスが改善されたものと考えられる。特に矩形面積や外周面積が拡大したことは、前後・左右方向への重心の制御能力の向上が考えられ、腹部ベルト使用による体幹・脊柱の安定性が腹筋群の強化なしで得られた可能性が示唆された。今後は虚弱高齢者で同手法を用いた検討をさらに腹部・下肢の筋活動を含めた総合的な解析を追加して行うことや、腹部トレーニングの効果の検討など、腹部の安定性と転倒の関係性を明確にしていきたいと考えている。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 本研究により、腹部ベルトが腹部の安定性の向上により立位バランス機能の向上に影響を与えていることが示唆された。簡易的に高齢者の動的バランスの改善が見込まれ、一時的なバランスの改善につなげられる。しかし、物理的な改善では腹部の筋力低下が考えられ、身体的な改善を実施していく必要性についても追求していくことがさらに転棟予防の理学療法に結びついていく。
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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