在宅高齢障害者の動的バランス能力について
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概要
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【目的】<BR>Functional Reach Test(以下FRT)の有用性については、所作様々な意見が述べられているが、臨床の現場では動的バランス能力の指標として広く用いられている。特に、身長や体重、年齢や筋力などの要因との関連は研究されている。しかし、FRTが立位での動的な検査ゆえに、体幹機能・下肢筋力との関連性を検討した報告はほとんど見られない。そこで今回、FRTが座位保持能力、下肢筋力とどのように関連しているか検証を行ない、多少の知見が得られたので報告する。<BR><BR>【方法】<BR>対象は、通所リハビリテーション利用者で重度認知症が認められず、調査に協力可能な25名の在宅高齢障害者を研究対象者とした。対象者の内訳は、男性9名、女性16名、年齢80.4±7.5歳、であった。<BR>方法として、対象者に対し、FRT、下肢筋力(股屈曲・膝伸展・足背屈)、座位保持能力を測定した。FRTは白板にメジャーをつけ体幹の回旋が生じないよう両肩関節90度屈曲位から前方へ最大限リーチさせた位置間を0.5cm単位で3回測定し、その最大値を記録した。なお、両上肢で行えない場合は片側で体幹の回旋が生じないよう行った。<BR>下肢筋力・座位保持能力はHand Held Dynamometer(日本メディックス社製パワートラック)を使用し、端座位にて股関節・膝関節90度屈曲位で下腿を下垂した状態を開始肢位とし、3回測定した。測定結果の最大値を下肢筋力として記録した。抵抗部位はDanielsらの徒手筋力検査法を参考に行った。座位保持能力は両上肢を体幹前方で組み、上腕部に側方から抵抗を加え、体幹をできるだけ正中位に保つよう指示した。FRTの結果を元に10cm以下群(以下1群)、10cmから15cm群(以下2群)、15cm以上群(以下3群)の3群に分け、それぞれの下肢筋力を計測した。<BR>データの解析はKruskal Wallis H-testを使用し多重比較を行ない、spearman's correlationを使用し相関係数を用いて検討した。<BR><BR>【説明と同意】<BR>対象者に、研究の趣旨・目的、測定方法、研究に参加することによって一切の不利益が生じないことを説明した。また、同意した後であっても、いつでも同意を撤回できる事を理解していただいた上で同意書に署名していただいた。<BR><BR>【結果】<BR>股関節1群135.6±50.0Nm、2群147.6±30.2Nm、3群191.1±60.4Nm、膝関節1群140.3±38.6Nm、2群131.0±51.2Nm、3群175.6±61.7Nm、足関節1群127.6±29.9Nm、2群115.7±25.0Nm、3群152.0±66.3Nm、座位保持能力は1群45.0±14.9Nm、2群59.4±26.8Nm、3群61.6±15.5Nmであり、股関節の1群と3群、座位の1群と3群間に有意差が見られた。(p<0.05)<BR>またFRTと座位保持能力、FRTと下肢筋力、座位保持能力と下肢筋力の間では、高い相関は見られなかった。<BR><BR>【考察】<BR>今回当施設通所リハビリテーション利用者を対象に、FRTと座位保持能力・下肢筋力との関連性について検討した。FRTと座位保持能力の間では、1群と3群間で有意差が見られた。FRTにはバランス機能の他に、上半身の柔軟性や筋力が関与している可能性が指摘されるという報告がある。また、内山らの報告によると、座位保持能力には体幹機能が強く影響するという報告もある。今回の結果からも、FRTには、座位保持能力が関係すると考えられた。<BR>下肢筋力では、股屈曲の1群と3群で有意差が見られた。また、膝伸展や足背屈の1群と3群を比較するとFRTの高い群ほど筋力が高い傾向が認められた。これは、先行研究と同様にFRTと下肢筋力に関連性があることが考えられた。藤原らの研究によると最前傾位のような筋活動量の多い姿勢では安定性の起因として筋力の重要性が増大すると報告している。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>バランス能力と転倒について相関があるという報告がある。バランス能力を臨床で簡易に測定できる方法としてFRTが用いられている。今回、FRTと座位保持能力や下肢筋力の関連性を検討し、FRTが高値の対象者は、座位保持能力や下肢筋力が高値を示した。座位保持能力や下肢筋力を増強させることにより転倒の危険性を軽減させることができるのではないかと考える。
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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