安心安全リハビリテーション平行棒の開発
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概要
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【目的】リハビリテーション平行棒は歩行障害の運動療法における必須機器としてリハビリテーション室に装備されている。患者・障害者は平行棒の端で車椅子から立ち上がり、3.5m程度の平行棒内で歩行練習を行う。しかし、歩行機能の低下した高齢者や急性期患者では、途中で歩行継続が難しくなり前進も後退もできなくなり、平行棒内からの救助を必要とすることがままある。このような状況で現行の平行棒では構造上の理由から車椅子を歩行中の患者にアクセスさせて座位をとらせることは不可能で極めて危険な状況が生じる可能性が潜在している。そこで、本研究では、このような平行棒の現状調査を実施した後、緊急時に安全かつ迅速に車椅子を平行棒内の患者にアクセスさせることが可能で、患者・介助者が安心して平行棒歩行練習ができる平行棒を開発することを目的とした。<BR><BR>【方法】平行棒と車椅子の相対的関係を把握するため、既存のリハビリテーション平行棒および車椅子の製造各社の製品仕様を取り寄せるとともに、病院リハビリテーション科、老人保健施設を始めとする複数の施設における機器実地調査を行った。以上の実用所見から、平行棒間隔、支柱間隔、平行棒と支柱を結合する構造、および昇降調整機構について設計し、平行棒の試作品を作成した。<BR><BR>【説明と同意】本研究は研究対象者を直接必要としない機器の開発である。<BR><BR>【結果】汎用的事項として、1)一般的平行棒では2本の平行棒間隔は55cmであり、2)支柱間隔もこれに等しいこと、3)車いすのホイール部分の最大幅は62cm程度であること、4)小柄な高齢女性が平行棒を使用する際には70cm程度の高さまで平行棒を下げても車椅子が平行棒内に入ることが抽出された。<BR> これらの所見をもとに試作品を作成した。一般的車椅子(幅62cm)が余裕を持って平行棒内にアクセスできるように、平行棒支柱間距離を車椅子の最も幅の広い車軸高で74.2cmを確保した。そのため、55cmの2本の平行棒間距離を維持するため、約10cm外側方向に各支柱と各平行棒を連結させた試作品を作成した。2本の平行棒は長さ4.0mの金属円柱(直径42.7cm)とした。各平行棒は平行棒を支える2対の支柱の上部に対して外側方向へ約10.0cm広げて連結し、結果として平行棒間が55cm、支柱間が74.2cm確保された。平行棒接続部における上部支柱の彎曲に対する強度を保つためにこの部位はパイプに代わって鋼材を使用した。平行棒が支柱よりも内側に位置するため、支柱脚部において内側へ倒れるモーメントが生じる。これに対し、2対の支柱下端は金属製プレートで連結固定し、支柱脚部外側の支持性を高めることにより、平行棒に対する垂直荷重による支柱脚部の内側モーメントに対応した。本試作品において車椅子は平行棒内に余裕をもって入ることが可能で、当初の目的とする試作品が完成した。<BR><BR>【考察】本平行棒では一般の市販平行棒とは異なり、緊急時に車椅子を平行棒内にアクセスすることが可能である。このため、立ち上がりはできるが数歩の歩行しか持続できない患者・障害者に対しても平行棒歩行練習を可能とする。また、平行棒内の支柱結合部の内側まで車椅子を挿入し、その位置で立ち上がり歩行を開始することにより、支柱連結床面プレートの僅かな段差による足部のクリアランス障害も解消される。自主歩行練習においても、歩行練習終了後に車椅子の後進操作を必要とせず前進させて平行棒から離れることが可能なため、車椅子操作が困難な患者・障害者の利用においても有効である。以上の利点から、本平行棒の使用により、患者・障害者が安心して平行棒歩行ができるのみならず、療法士にとっても安心して歩行指導が可能となり、両者にとって平行棒歩行練習における「心のバリア」が解消されるものと考えられる。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】本平行棒の概念がそのスタンダードとして普及することにより、運動療法の必須機器である平行棒を用いた歩行練習の可能性が大いに向上されることが期待できる。
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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