肥満高齢女性の身体活動量に健康関連QOLが及ぼす影響
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概要
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【目的】<BR>生活習慣病予防の幅広い取り組みが、個人レベルから行政レベルまで我が国で行われるようになった。中でも、身体活動量を増加させることが、健康増進につながるとされ、強く推し進められている。高齢者は加齢とともに全身機能が低下し、活動量も合わせて低下するので、高齢者に対する取り組みは重要視されている。また、高齢者は機能低下とあわせて、自身の健康感が低下している場合が多く、高齢者の活動量を増加させるための介入効果を阻害する要因の一つであると言われている。一方で、肥満傾向の強いものは特異的な心理状態を持ち合わせている場合が多く、一般的な健康増進プログラムでは活動量が増加しにくいとも言われている。そこで本研究では、高齢かつ肥満傾向のある者の身体活動量に、健康に対する心理状態 (健康関連QOL) が影響を及ぼすか否かを検討することを目的とする。<BR><BR>【方法】<BR>対象者は、研究参加に同意の得られた地域在住女性高齢者310名とした (年齢: 78.9 ± 7.2歳)。身長、体重を測定しBody Mass Index (BMI) を算出し、BMIが25 kg/m<SUP>2</SUP>以上の者を肥満群 (101名)、それ以外の者を非肥満群 (209名) と、各々群分けした。身体活動量は生活習慣記録機 (Lifecorder EX, Suzuken) を一週間装着して一日平均歩数 (Physical activity : PA) を算出した。身体機能を反映するTimed Up & Go (TUG)を測定した。健康関連QOLについては、SF-36を用いて測定し、国民標準値を50点とするスコアリングを行い下位尺度別 (身体機能: PF, 身体的日常役割機能: RP, 身体の痛み: BP, 社会的生活機能: SF, 全体的健康感: GH, 活力: VT, 精神的日常役割機能: RE, 心の健康: MH) に算出した。統計解析は、群間比較をunpaired t testにて行い、身体活動量を目的変数、QOLの下位尺度と調整因子であるTUG、年齢、身長、体重を独立変数とし強制投入した重回帰分析を群別に行い、統計学的有意水準を5%未満とした。<BR><BR>【説明と同意】<BR>本研究は神戸大学医学倫理委員会の承認を得たのちに実施された。研究内容の説明の上、同意書の得られた者を対象者とし、研究はヘルシンキンキ宣言に基づき倫理的配慮を十分に行った上で実施された。<BR><BR>【結果】<BR>非肥満群は209名で、年齢は78.3 ± 6.1歳、BMIは21.6 ± 2.1 kg/m<SUP>2</SUP>であった。一方、肥満群は101名で、年齢は79.1 ± 7.2歳、BMIは27.8 ± 2.7 kg/m<SUP>2</SUP>であった。PAは対象者全体では5773±3467歩 (中央値: 5018歩)であり、肥満群のほうが有意に低値をとり (p = 0.002)、TUGは肥満群のほうが有意に高値で (p < 0.001)、身体機能、身体活動量ともに肥満群の方が低下していた。SF-36の下位尺度ではPFのみ有意に低値をとった (p = 0.004)。重回帰分析の結果、非肥満群ではPAに対して有意な関連性をもつものとしては、年齢 (p < 0.0001、β = -0.417)、TUG (p = 0.026、β = -0.156)、PF (p = 0.036、β = 0.160)、GH (p = 0.038、β = 0.162)が抽出された。一方、肥満群においては、年齢 (p = 0.017、β = -0.232)、TUG (p = 0.039、β = 0.240)、VT (p = 0.021、β = 0.293) が有意な関連性を持つ事が示された。<BR><BR>【考察】<BR>肥満傾向のある者は、身体活動量、身体機能の低下が有意にみられた。また、肥満傾向のない者は、身体活動量に対して、身体機能や全体的健康感など、一般的に妥当と考えられる因子が関連してた。一方で、肥満傾向のある者は身体機能以外に、活力という特異的な心理面が身体活動量と関連することが示唆された。これらのことから、健常高齢者では身体機能の向上が身体活動量の増加に直接的につながると考えられるが、肥満傾向のある高齢者には身体機能向上だけでなく、心理的なアプローチも必要であると考えられる。つまり、高齢者に対する身体活動量を図るには、肥満度などの対象特性に着目し、その特性に合わせた介入方法の開発が必要と考えられる。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>近年、健康増進の分野において理学療法士の必要性が問われ、特に高齢者や肥満傾向のある者を対象とする場合、医学的知識を有し個別対応に長けている理学療法士の活躍が期待されている。本研究は、身体活動量の増加に対し、対象特性をふまえた上で、どのような因子を考慮しなければならないかという事を示唆し、よりよい介入方法の開発の一助となりうると考えられる。これらのことから、本研究が理学療法の発展に寄与すると考えられる。
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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