呼吸介助手技における手掌面圧と換気変化の関係
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概要
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【目的】呼吸介助手技とは、患者の胸郭を用手的に圧迫することで呼気を促進し、相対的に吸気量の増大を得ようとするものである。一方、呼吸介助手技に関するこれまでの報告では、呼吸介助中の換気変化や横隔膜運動の変化といった患者の状態変化に着目したものは散見されるが、治療者側の技術的側面も含めて検討したものは少ない。しかし、呼吸介助手技において実際に患者の状態変化を起こしているのは治療者の手掌面から加えられる圧であり、その圧と患者の状態変化の関係性について検討することは呼吸介助手技を技術的に習熟する上で重要である。<BR>本研究では、呼吸介助手技における最大手掌面圧の平均値と一回換気量(TV)、終末吸気肺気量位(EILV)、終末呼気肺気量位(EELV)の関係について検討することを目的とする。<BR>【方法】対象(術者)は、男性理学療法士19名(年齢34±7歳、身長174±6cm、体重66±7kg、経験年数9±7年)、被術者は健常男性1名(年齢33歳、身長176cm、体重84kg)とした。測定肢位は術者を立位、被術者をベッド上背臥位とし、術者は被術者に向かって右側に位置するようにし、ベッドの高さは各術者が呼吸介助手技を行いやすい任意の高さとした。シートセンサを被術者の上部胸郭上にたわみがないようにのせ、その上から上部胸郭に対する呼吸介助手技を行った。測定は安静2分の後に呼吸介助手技5分を実施した。呼気ガス分析器(ミナト医科学社製AE300-S)を用いて肺気量、流量変化等を測定し、肺気量位の変化は、流量変化をサンプリング周波数100HzでPCに取り込み、肺活量、TV、EILV、EELV、呼吸数、呼吸リズム等を測定した。EILV、EELVは、肺活量の比で表した。安静時、呼吸介助時ともにTV、呼吸数、呼吸リズムの安定した状態で、3~4呼吸を抽出し、TV、EILV、EELVを測定した。また呼吸介助時に関しては、抽出した時間軸における最大手掌面圧の平均値を測定した。手掌面圧はシートセンサ(XSENSOR社製X3PX100)を用いて測定し、呼吸介助中の経時的な圧変化はサンプリング周波数10Hzで面圧解析ソフト(XSENSOR社製X3Medical5.0)に取り込み、測定した。<BR>【説明と同意】対象には本研究の趣旨を十分に説明し、同意を得た。<BR>【結果】安静呼吸でのTVは718±90ml、EILVは31.2±5.7%、EELVは16.4±4.9%であった。呼吸介助下でのTVは1136±172ml、EILVは30.5±6.6%、EELVは7.1±6.6%で、最大手掌面圧の平均値は104±55mmHgとなった。<BR>次に最大手掌面圧の平均値とTV変化量(ΔTV)、EILV変化量(ΔEILV)、EELV変化量(ΔEELV)、の各項目間での相関をみると、TV変化量(ΔTV)との間には強い正の相関関係(r=0.71、p<0.01)が、EELV変化量(ΔEELV)との間には負の相関関係(r=-0.68、p<0.01)がみられた。一方、最大手掌面圧の平均値とEILV変化量(ΔEILV)との間には、相関関係はみられなかった。<BR>【考察】呼吸介助手技の目的として、TVの増大やEILVの増加などが挙げられる。本研究により、最大手掌面圧の平均値とΔTVに強い正の相関関係がみられたことから、圧が強いほどTVの増大効果は大きいという可能性が示唆された。また、ΔEELVに関しては最大手掌面圧の平均値と比較して負の相関関係はみられたものの、ΔEILVに関しては相関関係がみられなかった。手掌面より加えられる圧が強くなることでより深い呼気は促せていると考えられるが、その後の深吸気が促されるかどうかについては、不明である。<BR>今後は、呼吸介助手技がEILVに及ぼす影響について、手掌面圧の分布やタイミングといった点についても検討するとともに、経験年数や自覚的な変化も含めて、多次元的に検討する必要があると考える。<BR>【理学療法学研究としての意義】呼吸介助時の手掌面圧と換気変化の関係性を知ることで、呼吸介助手技の効果を明確にするとともに、手技の習熟においても有用となると考える。
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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