当院における生物学的製剤使用症例の現状と理学療法的見解:疾患活動性の推移と理学療法介入時期の検討
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概要
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【目的】近年、関節リウマチ(RA)の治療は、生物学的製剤の導入によって疾患活動性のコントロールが可能となった。現在では、炎症症状や関連検査項目の改善だけでなく、関節破壊の抑制や修復など画像的な寛解や薬剤離脱が現実的な治療目標となっている。生物学的製剤導入前のRA治療指針では、物理療法による疼痛緩和、関節破壊や変形の予防、関節愛護的な生活指導など予防・維持的介入が理学療法の中心に位置づけられてきた。今後は疾患活動性が低く維持されている時期を見極め、早期から身体機能の向上を目的として積極的に介入する必要性が出てくる。しかし、これらに関しての報告はなく効果的な介入時期については明らかにされていない。そこで今回、当院での治療状況を調査し、理学療法士の効果的な介入時期と介入内容について考察を加えて検討した。<BR>【方法】対象は2005年4月1日から2009年9月30日までに当院に通院し、生物学的製剤を導入した201例のうち、48週以上経過観察が可能であった80例(男性:16名、女性:64名、平均年齢:57.6(±13.3) 歳、平均罹病期間:8.0(0.5-33.0)年)とした。それぞれの対象者について、5つの時期(薬剤導入前(BL)、導入後12週、24週、36週、48週)におけるDisease Activity Score28 (DAS28-ESR)、Modified Health Assessment Questionnaire (m-HAQ:0-3点)、患者満足度評価(VAS-S:0-100mm)、患者疼痛評価(VAS-P:0-100mm)を診療記録より後方視的に調査した。また、DAS28-ESRを活動度(High: >5.1、Moderate: 3.2-5.1、Low: 3.2-2.6、Remission:<2.6)に分類し各時期における活動度の比率を算出した。各評価項目値は各時期の中央値を求め、それらを統計学的に分析した(p<0.05)。<BR>【説明と同意】本研究は、当院の倫理委員会の承認を得てヘルシンキ宣言に基づいて実施された。<BR>【結果】各時期における有効データ数は、BL80例、12週75例、24週74例、36週68例、48週60例であった。DAS28-ESR値、VAS-S、VAS-Pでは、BLが他の時期より大きい値を示した(p<0.05)。m-HAQでは、BLと12週時が他の時期より大きな値を示す傾向がみられたが、時期による有意な差はみられなかった。DAS28活動度は、継続期間が長くなるにつれてHighの割合が減少しRemissionの割合が増加し、Moderateは時期による割合の変化が少ないという傾向がみられた。<BR>【考察】結果から生物学的製剤による疾患活動性の抑制は早期から強力にあらわれ、治療や関節痛に対する患者の自覚的満足度も早期から改善される可能性が示唆された。疾患活動性が改善し関節痛も軽減しているにも関わらず、身体機能評価の改善があまりみられなかったことについては、今回の対象者の平均罹病期間が8年前後と比較的長期であり、慢性的な関節痛により不活動な生活パターンが習慣化し活動的な生活への転換が行われなかった可能性が考えられる。これらの事から、今後生物学的製剤を用いたRA治療において理学療法士が早期に積極的な介入をすべきであることが示唆された。また、本研究では明確に提示できなかったが、薬効が次第に減弱する二次無効症例や間質性肺炎などの重篤な有害事象等により薬物治療から脱落する症例もみられ、高い疾患活動性を呈す症例の急激なADL低下に対しては、従来の予防・維持的な理学療法が必要であると考えられる。<BR>【理学療法学研究としての意義】理学療法は、RA治療において薬物療法、手術療法に次ぐ基礎的治療の一つとして位置づけられている。このことから、近年の薬物療法の進歩に追随する形で、理学療法のあり方も再考されるべきであり、今回の研究結果はRAの生物学的製剤治療における理学療法士の介入時期や介入方法を検討する上での一つの知見となり得ると考える。
- 公益社団法人 日本理学療法士協会の論文
公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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