大学アルペンスキー選手に対するフィジカルチェックの取り組み
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概要
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【目的】今回我々は、大学アルペンスキー選手に対してフィジカルチェック(FC)とアンケート形式の満足度調査を行い、パフォーマンスとの関係について検討したので報告する。<BR>【方法】対象は大学アルペンスキー選手4名(男性2名A:178cm、65.9kg、B:172cm、77.3kg、女性2名C:158cm、47.1kg、D:167cm、75.9kg)とした。FCは2008年6月から11月のオフシーズン中に2回もしくは3回実施した。FCの項目として、1)等速性単関節筋力(筋力)は、メディカ社製Cybex Normを用いて、股・膝関節伸展筋力(HE・KE)共に60deg/secの角速度における体重あたりのピークトルクを評価値とした。2)自転車エルゴメーターにおけるパワー発揮能力(無酸素運動能力)の評価は、Combi社製PowerMaxVIIを用いて体重に対する相対負荷を負荷設定に用いた最大無酸素パワーテストを行い、体重あたりの最大仕事量(MAnP/BW)を評価値とした。3)有酸素運動能力は、日本光電社製トレッドミルを用いて症候限界性の多段階漸増運動負荷試験を行った。呼気ガス分析は、ミナト社製エアロモニターAE280Sを用いて、呼吸性補償閾値(RCT)の走速度を求め評価値とした。RCTは主に換気性作業閾値以降に呼気終末二酸化炭素濃度が減少する点として求めた。フィードバックはFC終了後即日中に行った。また後日、FCの内容、フィードバック、FC自体に対する満足度や回転(SL)と大回転(GS)のスキー技術、持久力の変化などについて、記名の上アンケート形式の満足度調査を行った。これに加えて2007-2008年、2008-2009年シーズンのSL、GSの成績についても調査した。<BR>【結果】結果は各FC項目における対象の初回評価値と最終評価値、またその増減率のみ示す。1)筋力(Nm/kg)[対象A]HE右3.0から3.1、左3.6から3.8、それぞれ2.0%、5.5%増加。KE右3.2から3.7、左3.3から3.8、それぞれ13.8%、15.0%増加。[対象B]HE右2.7から2.6、左2.9から2.2、それぞれ2.2%、21.8%減少。KE右2.2から2.3で3.6%増加、左3.2から3.0で7.4%減少。[対象C]HE右3.1から3.6、左3.0から3.3でそれぞれ15.5%、8.8%増加、KE右2.7から3.0、左3.0から3.1でそれぞれ8.7%、2.0%増加。[対象D]HE右2.9から3.0、左2.4から2.8でそれぞれ3.1%、14.9%増加。KE右2.3から2.5、左2.3から2.7でそれぞれ5.0%、16.6%増加。2)無酸素運動能力(watt/kg)[対象A]16.6から18.6で12.0%増加。[対象B]12.7から12.6で0.5%減少。[対象C]9.7から11.9で22.7%増加。[対象D]10.8から11.9で9.8%増加。3)有酸素運動能力(km/h)[対象A]14.4から15.6で8.3%増加。[対象B]11.4から12.6で10.5%増加。[対象C]12.6から12.6 で変化なし。[対象D] 13.2から11.4で13.6%減少。また、アンケート形式の満足度調査では全対象からFCの内容とフィードバックには良好、FC自体には非常に良好な満足度が得られた。これに加えて、シーズン成績はSL、GS共に対象A、C、Dは向上したが、対象Bは低下していた。<BR>【考察】アルペンスキーにおける過去の報告を散見すると、Hintermeisterらはターン時には脚伸展筋群の筋活動が大きくなると報告し、寒川らも同様にターン時には大腿四頭筋筋力が重要で、下肢筋力や無酸素運動能力が競技力向上に必要であると報告している。今回の結果において、HE、KE、MAnP/BWが増加傾向にあった対象A、C、Dはシーズン成績が向上し、低下傾向にあった対象Bはシーズン成績が低下しており、過去の報告と同様に筋力と無酸素運動能力がパフォーマンスを反映していた。次に、有酸素運動能力と無酸素運動能力の関係を見ると、対象CはMAnP/BWが増加していたがRCTには変化がなく、アンケート調査では「持久力が弱くなった」と自覚していた。これに対して、MAnP/BW とRCTが共に増加していた対象Aのアンケート調査では「練習量を増やす事ができた」と自覚していた。このため、対象Cのように無酸素運動能力のみ増加した場合は、疲労しやすくなるといった問題が生じ、対象Aのように無酸素運動能力の増加に対して十分な有酸素運動能力の増加が認められた場合は、問題なく練習量を確保する事が可能となっていたのではないかと考えた。今回我々はFCの項目として、脚伸展筋力を構成するHE、KEの単関節筋力と無酸素運動能力を表すMAnP/BWのみならず、有酸素運動能力の指標であるRCTを加えて各対象を多角的に評価した。その結果、筋力と無酸素運動能力の評価値の変化と実際のパフォーマンスの変化が一致していた。これに加えて、無酸素運動能力の変化と有酸素運動能力の変化が自覚や練習量を反映していた。したがって、全対象からFCに高い満足度を得ることができたのではないかと考えた。<BR>【理学療法学研究としての意義】今回我々の行ったFCが、アルペンスキーのパフォーマンスとの関係が深くオフシーズン中のトレーニング実施における弱点抽出に適していると考えた。<BR>
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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