変形性膝関節症の後足部アライメントについて
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概要
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【目的】変形性膝関節症(以下膝OA)における後足部の内外反アライメントに関して、石田らによればFTAの増加と後足部の外反に正の相関がみられたと報告されているが、平良らは膝OA扁平足患者では歩行時の距骨下関節は回内方向への変化がなく、回外で立脚中期になると報告している。膝OA患者に対する外側ウェッジの効果は踵骨の外反化によるとの報告が多数みられ、膝OA患者の後足部アライメントについては、不明な点が多い。また健常者の足部の運動連鎖では下腿が内旋すると踵骨は回内しアーチは低くなるといわれている。膝OA患者は一般に脛骨が内捻していると言われるが、この脛骨の捻転の程度や、後足部のアライメントが健常者とどのような差があるかを明らかにする目的にて、膝OA患者の踵‐床アライメント、脛骨捻転、アーチ高率を測定し、健常者と比較検討した。<BR>【方法】対象は整形外科医に膝OAと診断を受けた女性12名20肢(平均年齢69±11歳 右8肢左12肢 以下OA群)、足部に整形外科疾患の既往のない女性10名20肢(平均年齢28±4.9歳 右10肢左10肢 以下比較群)とした。踵‐床アライメント、脛骨捻転はデジタルカメラ(オリンパス社製μ‐15)にて撮影し、画像解析ソフトImageJを使用し角度を測定した。踵‐床アライメントは、高さ15cmの台の上に足部は肩幅に開き、前足部は正面に向けた立位で測定した。体重は左右均等に荷重し、目線は2m先の目線と同様の高さの目印を注視するように指示した。踵骨近位中点と中間位の中点に幅8mmのランドマークをつけ後足部から1m離れたところより撮影した。2点のランドマークを結ぶ線と台の床面とがなす角度を踵‐床アライメントとした。脛骨捻転はプラットホームに測定側のみ膝関節を伸展し、反対側は非検者の安楽な長坐位姿勢で測定した。膝蓋骨を鉛直線上に向け足関節を90°に保持し、内・外果の中央に各約2cmの球形のマーカーを着け、足底より60cm離れたところより撮影した。この2点のマーカーを結ぶ線とプラットホームの坐面とがなす角度を脛骨捻転とした。アーチ高率は踵‐床アライメントと同様の測定姿勢で、大久保らの足アーチ高測定方法を使用し、11%以下、11~15%、15%以上の3群に分類した。統計は統計解析ソフトSPSS17.0Jを使用し、有意水準はp<0.05以下とした。まず、測定値の信頼性を確認するために比較群の測定項目全てに級内相関係数(ICC)を求め、さらに比較群における左右値について対応のあるt検定を行った。OA群と比較群の踵‐床アライメントと脛骨捻転については対応のないt検定を行い、アーチ高率はカイ2乗検定を行った。<BR>【説明と同意】全員に研究の趣旨を口頭により説明し同意を得た。<BR>【結果】比較群の級内相関係数(ICC)の結果は、踵‐床アライメントはp=0.856、脛骨捻転はp=0.870、アーチ高率はp=0.994であった。そのため検定には各々3回測定した平均値を使用した。比較群の左右差については踵‐床アライメントはp=0.550、脛骨捻転はp=0.485、アーチ高率はp=0.249と全て左右差を認めなかった。<BR>踵‐床アライメントはOA群が89.07±4.74°、比較群が94.33±3.98°でありOA群は踵骨回外位で比較群は踵骨回内位であった。脛骨捻転はOA群が9.11±3.85°、比較群が13.22±4.42°でありOA群は内捻していた。アーチ高率はOA群が16.58±2.90%(11%以下1名、11~15%5名、15%以上14名)、比較群が17.22±2.82%(11%以下1名、11~15%2名、15%以上17名)であった。踵‐床アライメントと脛骨捻転はp<0.01(p=0.001、p=0.003)と有意な差があり、アーチ高率はp=0.455と有意差はなかった。<BR>【考察】本研究の結果、脛骨捻転はOA群が比較群よりも内捻していたが、アーチ高率は両群間に有意差はなかった。後足部はOA群が踵骨回外位で比較群が回内位であった。測定肢位が前足部を正面に向けた肢位としたことから、脛骨の内捻傾向にあるOA群は、前足部が外転され後足部が回内位になると考えられたが、OA群の後足部が比較群より回外位であった。比較群では脛骨は内旋方向に制動され、外捻している比較群では脛骨が内捻方向へのストレスが加わったと考えられた。この脛骨の内捻方向のストレスは距骨下関節に伝わり踵骨は回内位になったと考えられた。踵骨が回内位であることから、アーチ高率は低くなりOA群と比較群に有意差がない結果になったと考えられた。<BR>今回の研究の結果から後足部のアラメントを評価する場合、前足部の方向を考慮する必要性があると示唆された。今後は前足部の方向を考慮してさらに膝OAの後足部アラメントについて検討を行いたい。<BR>【理学療法研究としての意義】足部のアライメントは運動連鎖による影響をうけ下肢全体に影響を与え、特に膝OAには関係が深い。膝OAにおける足部アライメントの傾向を把握して理学療法を展開していくことは重要であり、本研究に意義があると考える。
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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