膝前十字靭帯再建術後の膝伸展筋力について(第3報):術後4ヶ月の膝屈曲筋力体重比からみた膝伸展筋力患健比の改善過程の検討
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概要
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【目的】膝前十字靭帯再建術後の膝周囲筋力の回復は、関節安定性や再受傷予防、スポーツ復帰に重要である。当院では、術後6ヶ月以降でのスポーツ復帰を目標にその目安を諸家による報告と同様の等速性膝伸展筋力患健比80%以上としている。我われは第44回本学術大会において、術後5ヶ月で等速性膝伸展筋力患健比が60度/秒で79.5%、180度/秒で81.5%、等速性膝屈曲筋力患健比が60度/秒で85.8%、180度/秒で85.7%に回復したことを報告した。今回、継続的に膝前十字靭帯再建術後の筋力回復過程を調べる目的で術前後に筋力測定を行い、術後4ヶ月の等速性膝屈曲筋力に着目し等速性膝伸展筋力患健比の改善過程について検討したので報告する。<BR><BR>【方法】対象は、2006年2月から2008年12月までに当院にて自家半腱様筋腱を用いた膝前十字靭帯再建術を受け、継続的に術前および術後4ヶ月と5ヶ月に筋力測定を行えた68例(男性33例、女性35例)で、平均年齢は28.96±12.81歳であった。筋力測定は、サイベックス社製サイベックスノームを用い、術前および術後4ヶ月と5ヶ月の患側および健側の膝伸展・屈曲筋力を角速度60・180度/秒で測定した。さらに探索的データ解析により、術後4ヶ月における60度/秒での膝屈曲体重比(ピークトルク/体重×100%)が平均以上をA群、平均未満をB群と2群にクラス分けできた。2群それぞれの術前および術後4ヶ月と5ヶ月の膝伸展患健比(ピークトルク患側値/ピークトルク健側値×100%)を算出して比較検討した。統計処理ソフトはSPSS15.0Jを使用し、2群間および術前と術後4ヶ月・5ヶ月の間に平均値の差がみられるかどうかを検討するため、二元配置分散分析を行った。クラス要因は被験者間要因、測定時期要因は被験者内要因である。調査期間は2006年1月から2009年5月とした。<BR><BR>【説明と同意】当院では、術後6ヶ月以降でのスポーツ復帰を目標にその目安を等速性膝伸展筋力患健比80%以上としている。膝前十字靭帯再建術前後の等速性筋力の測定は、理学療法を進めていく上での重要な評価の一つとなること、スポーツ復帰を目指す上での一つの指標となることを十分に説明して承諾を得た上で行い、その結果を説明することで現状の把握と今後の目標設定を行っている。なお、本研究は当院の倫理委員会で承認されたものである。<BR><BR>【結果】術後4ヶ月における60度/秒での膝屈曲体重比(%)の平均値は、101.37±26.56であった。クラス要因・測定時期要因ともに有意な主効果がみられ(P<0.01)多重比較(Bonferroniの方法)の結果、1%水準で有意差がみられた。A群の膝伸展患健比(%)は、術前・術後4ヶ月・5ヶ月の順に60度/秒で77.42±11.72、81.35±9.12、84.84±9.54、180度/秒で82.35±12.07、83.10±8.83、88.87±9.79と推移し、60・180度/秒ともに術後4ヶ月と5ヶ月で差がみられた。B群の膝伸展患健比(%)は、術前・術後4ヶ月・5ヶ月の順に60度/秒で74.51±21.94、66.49±12.60、74.24±13.93、180度/秒で76.86±20.90、70.19±11.00、75.76±12.50と推移し60・180度/秒ともに術後4ヶ月と5ヶ月で差がみられた。術後4ヶ月および5ヶ月の膝伸展患健比は、ともに両群間で差がみられた。<BR><BR>【考察】今回の研究では、探索的データ解析により術後4ヶ月における60度/秒での膝屈曲体重比でクラス分けできた。両群ともに術後4ヶ月から5ヶ月にかけて膝伸展患健比は改善し、A群では術前から術後4ヶ月にかけて増加し、スポーツ復帰の目安である80%に到達した。一方、B群では術前から術後4ヶ月で低下したのち術後5ヶ月にかけて増加したものの、スポーツ復帰の目安である80%には到達しなかった。つまり、膝前十字靭帯再建術後の膝伸展筋力患健比の改善過程は一様ではなく、術後4ヶ月における60度/秒での膝屈曲体重比が、膝伸展患健比の改善過程おける一つの指標となることが推察された。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】膝前十字靭帯再建術後の膝周囲筋力の回復は、関節安定性や再受傷予防、スポーツ復帰に重要であるが、その改善過程は一様ではなく年齢・性別・競技レベル・競技種目など多面的な評価が必要である。今回、膝屈曲筋力体重比から膝伸展筋力患健比の改善過程を検討したことは、様々な個体要素から検討する上での一側面として意義あるもの考える。
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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