半月板損傷合併はACL再建術6ヶ月後の筋力に影響するか?:半月板損傷に対する術式の影響
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概要
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【目的】<BR>前十字靱帯(ACL)損傷時の半月板損傷合併は高頻度に生じるため、ACL再建術と半月板に対する処置は併用されることが多い。半月板切除術後は、経年的に関節症が進行し、その長期予後は不良とする報告がある。そのため当院では可能な限り半月板縫合術の適応を広げ実施している。ACL再建術後の筋力回復に関する報告は多いが、半月板損傷の合併の有無が筋力回復に影響するか否かの報告は少ない。特に半月板縫合術を併用した場合では術後に免荷期間を設けるため、ACL再建術単独の場合やACL再建術に半月板切除術を併用した場合より筋力回復は遅れることが予想される。適切な理学療法を進めるうえで、術式の違いによる筋力回復の特徴を知ることは重要である。本研究の目的は、ACL再建術半年を経過した症例に対して、1.ACL再建術単独のみの群(単独再建群)、2.ACL再建術に半月板切除術を併用した群(半月板切除併用群)、3.ACL再建術に半月板縫合術を併用した群(半月板縫合併用群)の3群で術後6ヶ月時点での筋力回復に差があるかを明らかにすることである。<BR>【方法】<BR>対象は当院でACL再建術を受け、術後6ヶ月時に筋力測定が可能であった26例(男性14例、女性12例)である。年齢は25.8±10.7歳、BMIは 23.7±3.6であり、全例がスポーツ活動時の受傷であった。手術の内訳は、単独再建群が12例、半月板切除併用群が7例、半月板縫合併用群が7例であった。筋力測定はBiodexを用い、角速度60°/sec、180°/secでの等速性筋力を測定し、1.術側ピークトルク体重比(Nm/kg)、2.健患比(%)、3.健患比において術側筋力が80%未満の患者数の割合(%)、4.術側加速時間(msec)を算出した。加速時間とは運動開始から設定角速度に達するまでの所要時間であり、瞬発力や神経筋能力の指標である。統計解析は3群間の比較にANOVAを使用した。なお、当院の術後プロトコールは、単独再建群と半月板切除併用群は術後より痛みに応じて全荷重が許可され、筋力強化は主にスクワットなどで実施される。それに対し、半月板縫合術を併用した場合は3週間の免荷期間を設け、筋力強化は大腿四頭筋セッティングやSLRなどで実施される。<BR>【説明と同意】<BR>対象者には筋力測定時に口頭で本研究の趣旨を説明し同意を得た。<BR>【結果】<BR>3群間の年齢、BMIに有意差を認めなかった。術側ピークトルク体重比は角速度60°/sec、180°/secにおいて伸展、屈曲とも3群間で有意差を認めなかったが、角速度60°/secの膝伸展においては単独再建群が2.13(Nm/kg)、半月板切除併用群が2.14(Nm/kg)であるのに対し、半月板縫合併用群は1.72(Nm/kg)とやや低値を示した。健患比は3群間の有意差を認めなかったが、角速度60°/secの膝伸展においては単独再建群が84%、半月板切除併用群が93%、半月板縫合併用群が68%であり、半月板縫合併用群は低下する傾向を示した(P=0.06)。健患比が80%未満の患者数の割合では、角速度60°/secの膝伸展においては単独再建群が33%、半月板切除併用群が29%、半月板縫合併用群が71%であり、半月板縫合併用群では当院でのスポーツ復帰の目安となる健患比80%以上を獲得できていない症例が多かった。術側加速時間は、角速度60°/sec、180°/secにおいて伸展、屈曲とも3群間の有意差を認めなかったが、いずれにおいても単独再建群の加速時間がもっとも短かった。<BR>【考察】<BR>本研究の結果では、術側ピークトルク体重比、健患比とも3群間で有意差を認めず、術式による差は明らかではなかった。しかし、半月板縫合併用群において当院がスポーツ復帰の指標としている膝伸展の健患比80%以上を獲得できていない症例が多かったことから、半月板縫合術を併用した場合の大腿四頭筋筋力の回復が遅れていることが明らかとなった。その理由として術後の免荷により抗重力筋である大腿四頭筋の廃用が生じ、それが術後6ヶ月まで残存する可能性が考えられた。これは膝屈曲においては3群間の差が膝伸展ほど明らかではなかったことからも示唆される。加速時間に関しては3群間で有意差を認めなかったが、単独再建群は加速時間がもっとも短い傾向にあったことから、半月板損傷を合併した症例の神経筋能力の回復にも留意する必要がある。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>ACL再建術後の筋力回復に関する報告は散見されるが、合併した半月板損傷に対する術式の影響を検討したものは少ない。本研究では免荷の影響を知るために半月板に対する処置を切除術と縫合術で群分けしたことが特徴である。また、スポーツ復帰の目安となる術後6ヶ月時点の筋力に関する報告は臨床的意義が高く、筋力という量的側面のみではなく加速時間という運動の質的側面を表す項目で比較したことも、手術後もスポーツ活動を継続することが多いACL損傷患者では意義が高い。
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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