内側型変形性膝関節症に対する新型膝装具の長期的効果の検証
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
【目的】近年の日本では高齢化に伴い,変形性膝関節症(膝OA)の罹患人口が増加しており,今後も増加していくことが予測される.膝OAに対する保存療法の一つとして膝外反装具が用いられている.膝外反装具は疼痛の緩和や身体機能の向上などの効果があるとされているが,従来の装具には着用感や外観などの問題があり,使用者のコンプライアンスが低く,装具による治療を中止することも少なくなかった.しかし最近では膝OA患者の大部分を占める高齢者向けに意匠性にも配慮された装具が開発されている.本研究では従来の膝外反装具に改良を加えた新型膝外反装具(UnloaderOne:U1,ossur社)の長期使用による疼痛および身体機能への影響を,WOMAC(the Western Ontario and McMaster University Osteoarthritis lndex)を使用して縦断的に評価,および介入効果の検討を行い,また使用に際して治療中止例の割合を検証し,その有用性および問題点,理学療法における装具療法の必要性について検討することを目的とした.<BR>【方法】対象は内側型膝OAと診断された男性2名,女性13名の計15名,67.2±10.3歳(平均±SD)とした.膝OAの重症度はKellgren-Lowrence分類でgradeIIが2例,IIIが8例,IVが5例であった.疼痛および身体機能の評価にはWOMACを使用した.U1による治療開始前,治療開始3ヶ月後,6ヵ月後のそれぞれの時点での治療中止率,および疼痛,身体機能を評価し比較を行った.なお本研究は広島大学倫理審査委員会の承認に基づいて行われた.<BR>【説明と同意】対象は自らの意思に基づき本研究に参加し,主任研究者あるいは分担研究者が説明文書に基づいて研究内容を説明し,同意文書への署名にて同意を得た.<BR>【結果】U1による治療開始後3ヶ月,6ヶ月の時点で治療を中止した対象はいなかった.3回全ての評価を終えている対象は8例で,治療開始前のWOMAC疼痛スコアは6.00±0.74,身体機能スコアは20.3±19.7であった.3ヶ月後はそれぞれ6.29±3.99,26.3±12.7であり,6ヶ月後はそれぞれ,6.25±3.96,21.1±15.3であった.疼痛スコアと身体機能スコアはいずれも経時的な増悪はなく,それぞれの詳細な項目においても有意な増悪は認められなかった.<BR>【考察】本研究においてU1による治療を中止した症例はなく,U1は使用者のコンプライアンスの点において有用性が示唆される.膝OAは退行性疾患であり,その症状および病態は一般的には経時的に進行するが,6ヶ月のフォローアップ後,WOMACの疼痛スコアおよび身体機能スコアに経時的な増悪が認められないという結果から,U1の介入により膝OAの疼痛および身体機能の増悪を防止している可能性が示唆される.本研究の限界として,U1による介入群のみをフォローアップしており,介入を行わないコントロール群を設定していないことが挙げられる.介入を行わない場合,症状がさらに進行していく可能性があるため,今後はコントロール群の設定により無作為化比較試験(RCT)を行い,U1の介入による膝OAの症状,病態の増悪の予防効果を比較,検討することが望ましいと考える.<BR>【理学療法学研究としての意義】本研究に用いた膝装具により,疼痛および身体機能の回復には至らないが,膝OA症状進行の予防となっている可能性があり,運動療法および物理療法と併用することで膝OAの治療法の選択肢が広がると考える.
- 公益社団法人 日本理学療法士協会の論文
公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
- 療養型病院における廃用症候群の予後予測
- 髄腔内バクロフェン治療(ITB)後の理学療法:―歩行可能な症例に対する評価とアプローチ―
- 理学療法士の職域拡大としてのマネジメントについて:―美容・健康業界参入への可能性―
- 脳血管障害患者の歩行速度と麻痺側立脚後期の関連性:短下肢装具足継手の有無に着目して
- 健常者と脳血管障害片麻痺者の共同運動の特徴:―異なる姿勢におけるprimary torqueとsecondary torqueの検討―