頸髄症術後患者の日常生活活動獲得状況に影響を与える要因:Barthel IndexとASIA運動スコアによる検討
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概要
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【目的】我々は、頸髄症術後患者90例を対象とした日常生活活動(ADL)の検討から、自宅退院には移動が自立となることが有意な要因であり、移動が自立となることは他のADL項目獲得状況とも相関が高いことを報告した。本研究の目的は、当センターにおける頸髄症術後患者の退院時ADLを調査し、ADL全体および各ADL項目の獲得状況を調査し、各ADL項目の獲得に影響を与える要因を検討することである。<BR>【方法】対象は2005年4月~2009年9月に当センターで理学療法(PT)を実施した頸髄症術後患者200例とした。対象患者の平均年齢は62.2±11.9歳、性別は男性151例・女性49例、疾患内訳は頸椎症性脊髄症163例・頸椎後縦靱帯骨化症27例・頸椎椎間板ヘルニア10例であった。手術からPT開始までの平均日数は1.2±1.0日、手術から退院までの平均日数は23.9±15.0日で、退院先は自宅174例・転院26例であった。PT評価として、ADLの評価はBarthel Index(BI)を使用、上肢・下肢運動麻痺重症度の評価はAmerican Spinal Injury Association(ASIA)運動スコアを使用し、退院時に実施した。退院時のADL獲得状況としてはBI総得点の中央値・25%値・75%値を算出し、各BI下位項目については自立となった患者の占める割合(自立率)を調査した。各BI下位項目で自立率が低い項目については、各BI下位項目の自立度に影響する要因の検討を行った。検討はデシジョンツリーによる解析を用い、従属変数をBI下位項目、独立変数を年齢・性別・疾患内訳・手術からPT開始までの日数・上肢ASIA運動スコア(上肢スコア)・下肢ASIA運動スコア(下肢スコア)とした。統計学的解析にはPASW Statistics 17.0のClassification and Regression Tree(CRT)を用いた。<BR>【説明と同意】本研究の内容はヘルシンキ宣言をもとに実施しており、収集した個人情報については当センターの患者個人情報保護規則をもとに取り扱った。<BR>【結果】退院時のBI総得点は中央値(25%-75%値)が100(95-100)点で、66.0%(132例)が満点を獲得していた。各BI下位項目の自立率は、食事で99.5%(199例)、椅子とベッド間の移乗で92.5%(185例)、整容で93.5%(187例)、トイレ動作で92.0%(184例)、入浴で78.5%(157例)、移動で82.5%(165例)、階段昇降で75.0%(150例)、更衣で87.5%(175例)、排便自制で98.0%(196例)、排尿自制で97.0%(194例)となり、入浴・移動・階段昇降・更衣の4項目で自立率が90%を下回った。デシジョンツリーを用いた解析により、入浴では自立率の低い順に、下肢スコア38点未満の群、下肢スコア38点以上で年齢が76歳以上の群、下肢スコア38点以上で年齢が76歳未満かつ上肢スコア44点未満の群、下肢スコア38点以上で年齢が76歳未満かつ上肢スコア44点以上の群の4群に分類され、予測基準の感度は94.3%、特異度は55.8%となった。移動では、下肢スコア42点未満の群、下肢スコア42点以上で年齢が76歳以上の群、下肢スコア42点以上で年齢が76歳未満かつ上肢スコア41点未満の群、下肢スコア42点以上で年齢が76歳未満かつ上肢スコア41点以上の群の4群に分類され、予測基準の感度は83.6%、特異度は77.1%となった。階段昇降では、下肢スコア42点未満の群、下肢スコア42点以上で年齢が75歳以上の群、下肢スコア42点以上・47点未満で年齢が75歳未満の群、下肢スコア47点以上で年齢が75歳未満の群の4群に分類され、予測基準の感度は85.3%、特異度は68.0%となった。更衣では、上肢スコア44点未満で下肢スコア42点未満の群、上肢スコア44点以上・47点未満で年齢が65歳以上の群、上肢スコア44点未満で下肢スコア42点以上の群、上肢スコア44点以上・47点未満で年齢が65歳未満の群、上肢スコア47点以上の群の5群に分類され、予測基準の感度は95.4%、特異度は60.0%となった。<BR>【考察】頸髄症術後患者では入院前から自宅生活が可能な例も多く、BIで評価できるADLは半数以上が満点となることが確認された。この結果から、満点が獲得可能と予測される症例に対するPTでは、応用動作や屋外活動なども含めた評価・プログラムを検討していく必要性が示唆された。自立率が90%を下回ったBI下位項目は入浴・移動・階段昇降・更衣の4項目であり、デシジョンツリーの結果から、入浴では下肢の運動機能と上肢の運動機能、移動と階段昇降ではより高い下肢の運動機能、更衣では上肢の運動機能といった重視すべき機能改善の要素と具体的な目標値を明らかにしたと考えられた。<BR>【理学療法学研究としての意義】理学療法は基本的動作能力の回復などを通じて、実用的な日常生活における諸活動の実現を目的とするものである。理学療法の対象となる疾患ごとの日常生活活動全体および諸活動に影響する要因を明らかにすることは、明確な目標設定や具体的な理学療法プログラムを立案するために有意義であると考える。
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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