脳血管障害者の単独外出自立に関連する因子の検討:障害者支援施設における外出訓練を通して
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概要
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【目的】<BR> 当施設に入所する脳血管障害等の後遺症者は40歳台の中年男性が多く、単身生活、家庭復帰、就職といった社会復帰に向けた自立支援を行っている。その中で外出能力の獲得は退園後の生活活動範囲を決定する大きな要因となる。当施設では理学療法士が中心となり外出訓練に取り組み、入所者の7割近くが市街地への買い物や公共交通の利用といった単独外出が可能となっている。脳血管疾患や頭部外傷による後遺症者の外出では、発症前と異なる移動手段、方略、能力が要求され、外出自立者のうち歩行が不十分の為、実用的な移動手段として車椅子を選択し外出を獲得する者も多い。ただし単独での外出自立を判断するには、移動能力だけでなく認知機能、社会性といった社会生活力について多角的に評価をしていく必要があり、その判定は容易ではない。過去の報告に外出について報告はあるが、外出の自立を判断する基準について報告は少ない。そのため、今回外出自立を判定する際の指標を見出すため、現在入所中の脳血管疾患および頭部外傷後遺症者を対象に日常的に臨床で用いる評価項目より移動能力および生活関連動作に着目し、外出能力との関連する因子について後ろ向き研究を行った。<BR>【方法】<BR>対象:2009年4月~8月に入所した脳血管障害者48名(男40女8)疾患:脳血管疾患31名、頭部外傷17名。年齢:平均42±13歳に対し、外出訓練により単独外出自立と判断した外出自立群32名(歩行23名・車椅子9名)。外出時に見守りを要する外出非自立群16名(歩行7名車椅子9名)に分類した。方法:リハカルテより基本情報として年齢・疾患・麻痺・発症日を収集し、臨床的に行われている評価項目として移動能力・生活活動項目について関連性から後ろ向き研究を行った。移動能力項目は自立移動範囲(施設屋内のみ自立・屋外移動自立400m・屋外移動800m以上および階段自立)、移動手段(車椅子または歩行)、最大歩行速度(m/min)。生活関連動作項目として機能的自立度評価表 (以下;FIM)より、運動FIM、認知FIM、FIM合計(126点)の各項目に対し、外出自立群と非自立群で比較を行った。統計解析は外出と各項目に対しχ2検定、T検定を行なった。有意差を認めた項目を独立変数とし、外出自立度を従属変数としてステップワイズ法による判別分析を行った。有意水準は5%未満とした。<BR>【説明と同意】<BR>対象者には本研究の主旨について説明し了承を得た。<BR>【結果】<BR> 外出自立は非自立との比較より、移動能力では「移動範囲」が有意に高く、屋外レベル以上の移動能力を獲得していた。基本情報項目および移動手段(p=.06)および歩行速度(p=.33)は有意差を認めなかった。また生活関連項目としてFIM合計平均は外出自立群110.2±6.1点、外出非自立群99.3±10.7であり、外出自立群が「FIM合計」「運動FIM」「認知FIM」ともに有意に高値を示した。次に外出自立度を従属変数とした判別分析の結果、各独立変数の標準化正準判別関数係数はFIM合計(1.063)移動範囲(0.174)認知FIM (0.117)が検出され「FIM合計」が顕著に高かった。判別的中率は77.1%であり、グループごとでは外出自立者84,4%、非自立者62.5%で非自立者の的中率が低かった。<BR>【考察】<BR> 今回の結果より外出自立者はすべて歩行または車椅子にて屋外移動自立レベルであった。また、移動手段と歩行速度では有意差を認められなかったことは、外出自立者の移動手段として車椅子が実用的な移動手段に用いられていることを示唆した。これは当施設における外出訓練の特徴を反映したものであった。また、判別分析の結果、「FIM合計」判別的中率77.1%と高く、「FIM合計」得点がもっとも高い関連性を認めた。これはFIMがADL面と認知面の両側を指標としており、外出自立を判定する為の因子になることを示唆していた。また非自立者の判別的中率が62.5%と低い傾向にあった。データー分析より社会的行動・記憶障害といった高次脳機能障害が主問題でFIM全体は高値だが、外出支援の対象に上がらない症例で予測が外れる傾向にあった。外出を判断する際、移動能力の他に心理・社会的要因の関与が推察された。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 今回、外出に必要な能力に関連する因子について後ろ向き研究を行った。外出は社会復帰に向けて重要となり、理学療法における最終目標となる。そのため外出能力に関連する因子を検討することは理学療法研究として意義は高い。
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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