脳血管障害例の精神機能および発症からの経過日数が屋内歩行自立判定に及ぼす影響
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概要
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【目的】本研究は脳血管障害例の屋内歩行自立判定において、精神機能および発症からの経過日数がTimed Up and Go Test(TUG)のカットオフ値に及ぼす影響を検討した。<BR>【方法】対象は発症後30日、45日もしくは60日の脳血管障害患者114例とした。内訳は脳梗塞70例、脳出血44例、男性79例、女性35例、平均年齢64.8±11.1歳、発症後30日群が27例、発症後45日群が41例、発症後60日群が46例であった。評価項目は快適歩行速度でのTUG、Mini Mental State Examination(MMSE)、評価日時点における屋内歩行自立可否の判定とした。屋内歩行自立の判定方法は自室内等の制限なしに病棟内を1人で転倒なく歩行可能と、PT2名が判定した場合に自立とした。また、伝い歩きは除き、歩行補助具の規定はしなかった。分析方法は全対象の脳血管障害患者114例をMMSE23点以下と24点以上の2群に分類し、更に発症からの経過日数別に分類し、計6群のTUGのカットオフ値をReceiver Operating Characteristic曲線にて算出し比較した。<BR>【説明と同意】対象者にはヘルシンキ宣言に基づき、研究内容を説明し同意を得た。<BR>【結果】屋内歩行自立におけるTUGのカットオフ値は、MMSE23点以下の発症後30日群が13.2秒、発症後45日群が16.8秒、発症後60日群が19.7秒であった。一方、MMSE24点以上の発症後30日群が14.6秒、発症後45日群が17.3秒、発症後60日群が20.8秒であった。感度および特異度は全て約90%であった。<BR>【考察】脳血管障害例の屋内歩行自立判定において、TUGのカットオフ値は精神機能および発症からの経過日数の影響か示唆された。精神機能の低下がある場合はカットオフ値が短縮傾向であった。精神機能低下の患者では様々な精神症状が転倒リスクに関与する。そのため、精神機能低下の患者の歩行自立には、精神機能非低下の患者に比べてより高い身体能力が必要であり、カットオフ値が短縮傾向になったと考えた。また、発症からの経過日数が短い場合もカットオフ値が短縮傾向であった。歩行自立の判定には転倒リスクの把握が重要であり、発症からの経過日数が短い患者では評価期間が短く、転倒リスクの把握が不十分なことがある。また、身体機能の変化が大きい回復期患者では転倒リスクの把握を更に難しくする。そのため、発症からの経過日数が短い回復期患者の歩行自立には、発症からの経過日数が長い患者に比べてより高い身体能力が必要であり、カットオフ値が短縮傾向になったと考えた。<BR>【理学療法学研究としての意義】Podsiadloらは歩行能力の定量的評価にはTUGが有用とし、須藤らは脳血管障害例の院内歩行自立のカットオフ値をTUG20秒とした。また、私達は第10回アジア理学療法学会にて、TUG はFunctional Reach Test、30秒間反復起立テスト等に比べて、脳血管障害例の屋内歩行自立判定に特に有用であり、カットオフ値をTUG19.3秒とした。このように屋内歩行自立判定にはTUGが有用であり、カットオフ値はTUG 19秒~20秒とした研究がある。しかし、脳血管障害例の屋内歩行自立判定おいて、精神機能および発症からの経過日数がTUGカットオフ値に及ぼす影響を検討した研究は少ない。本研究はMMSE23点以下および24点以上の発症後30日群、45日群および60日群のTUGのカットオフ値を算出し、上記患者群の屋内歩行自立判定の一助になり、臨床的有用性が高いと考える。
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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