脳血管障害患者における足関節底屈筋の筋緊張と罹患日数の関連性
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概要
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【目的】脳血管障害(cerebrovascular disease:CVD)患者の筋緊張と罹患日数の関連性を明らかにすることを目的とした。<BR>【方法】対象はCVD患者74人の麻痺側足関節底屈筋,評価者は理学療法士1人とした。筋緊張をModified Tardieu Scale(MTS)のR1とR2,Ankle Plantar Flexors Tone Scale(APTS)のStretch Reflex(SR),Middle range Resistance(MR),Final range Resistance(FR)により膝完全伸展(膝伸展)位と膝90°屈曲(膝屈曲)位で測定した。両指標は異なる伸張速度(R1とSRはできるだけ速く,R2とMR及びFRはできるだけゆっくり)により筋緊張の神経学的要素(neural components:NC)と非神経学的要素(peripheral components:PC)を考慮して評価できる。足関節底屈筋では,R1は反射性収縮が生じる背屈角度(反射が生じる筋長[主にNC]を反映),R2は最大背屈角度(最大伸張の程度[主にPC]を反映)を測定する。APTSは主観的指標でSRは伸張反射の程度を測定(主にNCを反映)し,0:反射性収縮なし,1:伸張反射の単収縮,2:3秒未満のクローヌス,3:3秒以上10秒未満のクローヌス,4:10秒以上のクローヌスである。MRとFRは伸張中間域と最終域の抵抗を測定(主にPCを反映)する。MRは0:抵抗なし,1:軽度の抵抗,2:中等度の抵抗,3:強い抵抗があるが他動運動可能,4:他動運動困難,FRは0:抵抗なし,1:軽度の抵抗,2:中等度の抵抗,3:強い抵抗があるが最終域の保持可能,4:最終域の保持困難又は他動運動困難である。CVDの機能回復は6ヵ月(180日)以内とする報告が多い(小林ら,2001)。これを参考に対象を発症後180日未満(短期群)と180日以上(長期群)に分け,R1とR2の群間差を対応のないt検定,SR,MR,FRの群間差をMann-WhitneyのU検定で検討し,各群内の罹患日数とR1,R2の関連性をピアソンの積率相関係数(r),SR,MR,FRとの関連性をスピアマンの順位相関係数(r<SUB>s</SUB>)で検討した(有意水準5%未満)。<BR>【説明と同意】当院倫理委員会の承認を受け,全対象に目的と方法を説明し書面で同意を得た。<BR>【結果】膝伸展位/屈曲位,平均値±標準偏差で示した。短期群は39人で罹患日数59.4±44.9日,長期群は35人で罹患日数2226.2±2635.9日であった。<BR> R1は短期群が-13.9±7.6°/-2.9±8.6°,長期群が-13.4±12.3°/-3.7±14.6°,R2は短期群が-4.0±6.6°/8.8±10.9°,長期群が-4.2±13.4°/6.7±16.2°,SRは短期群が1.5±1.4/1.5±1.4,長期群が0.8±1.2/1.3±1.4,MRは短期群が1.6±0.8/0.9±0.7,長期群が1.2±1.0/0.6±0.8,FRは短期群が2.1±0.8/1.4±0.8,長期群が1.9±1.0/1.5±1.1であった。膝伸展位のSRとMRは長期群に比して短期群が有意に大きかった(共にp<0.05)が他は両群間に有意差を認めなかった。<BR> 各群内の罹患日数と各指標との相関係数は,短期群のR1はr=-0.01/-0.08,R2はr=-0.00/0.11,SRはr<SUB>s</SUB>=0.33/0.49,MRはr<SUB>s</SUB>=-0.01/0.18,FRはr<SUB>s</SUB>=0.16/-0.02,長期群のR1はr=-0.05/0.05,R2はr=0.05/0.02,SRはr<SUB>s</SUB>=-0.16/-0.04,MRはr<SUB>s</SUB>=0.08/0.08,FRはr<SUB>s</SUB>=0.03/0.12であった。両肢位共に短期群の罹患日数とSRの間に弱い正の相関(共にp<0.05)を認め,他は相関を認めなかった。<BR>【考察】一般にCVDの筋緊張亢進は伸張反射(NC)亢進に始まりその後PCの伸張性が低下する(Satkunam;2004,Thompson et al;2005)。短期群の膝伸展位SRは長期群より有意に大きく,180日未満の対象では腓腹筋の伸張反射が亢進していると示唆された。また両肢位共に短期群は罹患日数とSRの間に弱い正の相関を認めた。180日未満では腓腹筋とヒラメ筋の伸張反射は罹患日数と共に亢進すると示唆された。これらは発症後初期の変化として先行研究の報告と概ね一致していた。一方,長期群の膝伸展位SRは短期群より小さかったが罹患日数とSRの相関は両肢位共に認めず,180日以上では腓腹筋の伸張反射が滅弱するがその後の変化は罹患日数と関連がないと示唆された。R1は群間差及び群内での罹患日数との相関も認めなかった。腓腹筋の伸張反射の程度と罹患日数は関連があるが,反射が生じる筋長と罹患日数との関連はないと考えられた。R1とSRの結果が異なったため筋緊張評価では両者の併用が有用と示唆された。<BR> 短期群の膝伸展位MRが長期群より有意に大きかったが,各群内の罹患日数との相関は認めなかった。PCを反映する他の指標は群間差,相関共に認めなかった。180日未満の対象では腓腹筋の伸張中間域の抵抗が180日以上より亢進しているが罹患日数との関連はないと示唆された。<BR>【理学療法学研究としての意義】筋緊張は未だ曖昧な部分も多い。本研究は筋緊張を理解する上での一助になると思われた。<BR>
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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