線条体,海馬,皮質におけるモノアミンの日内変動
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概要
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【目的】我々は機能回復のプロセスに関わる脳内物質を明らかにし,その発現と運動刺激の関連を調べることにより,運動療法の効果を明らかにすることを目指して研究を行っている。今回の研究では,運動を行う時はまず脳の神経が活動するという観点から,神経伝達物質に焦点をあてて実験を行う。特に今回は,基礎データとして線条体,海馬,皮質におけるモノアミンの日内変動を明らかにする目的で実験を行った。<BR><BR>【方法】マイクロダイアリシス法は,自由行動下の動物の行動観察と同時に組織の生体内物質の変動を経時的かつ連続的に検討できる唯一の方法である。今回の研究ではこのマイクロダイアリシス法を使用してモノアミン(NE:ノルエピネフリン,DA:ドーパミン,5-HT:セロトニン)の日内変化を測定した。実験には9週令のWistar系ラットの雄4匹体重299±21gを使用し,イソフルランの吸入麻酔下でラットを脳定位固定装置(SR-8N Narishige)で固定し,線条体,海馬,皮質にガイドカニューレを挿入した。挿入位置はブレグマを基準に線条体は(anterior:+0.2mm,lateral:3.0mm,ventral:3.5 mm),海馬は(anterior:-3.8mm,lateral:2.0mm,ventral:1.6 mm),Primary cortexは(anterior:+3.3mm,lateral:2.8mm,ventral:0.5 mm),Hindlimb regionは(anterior:-1.5mm,lateral:2.8mm,ventral:0.5 mm)とし,2個のアンカービスと歯科用セメントで固定した。計測は術後3日目に微量生体試料分析システム(HTEC-500,エイコム社製)を使用し,約20時間にわたり15分間隔でモノアミンの細胞外濃度を測定した。なお確認のため反対側脳室とプローブ側へNE・DA・5-HTを投与してグラフ上のNE・DA・5-HTの同定を行った。<BR><BR>【説明と同意】今回の実験は鹿児島大学動物実験指針に従い,鹿児島大学動物実験委員会の承認を得て行った。<BR><BR>【結果】マイクロダイアリシスのデータは,測定開始時が不安定になることから3時間以降のものを採用した。線条体ではNEを同定できなかったが,DAは90分ごとの平均をとると4.8±0.2mVから6.2±0.2mVで,5-HTは0.2±0.1mVから0.3±0.03mVであった。海馬でのNEは1.5±0.1mVから1.9±0.1mV,DAは0.7±0.04mVから0.8±0.03mV,5-HTは0.2±0.03mVから0.4±0.05mVであった。Primary cortexでのNEは1.3±0.1mVから1.7±0.1mV,DAは0.5±0.1mVから0.7±0.1mV,5-HTは0.09±0.07mVから0.14±0.06mVであった。Hindlimb regionでのNEは1.0±0.04mVから2.4±0.1mV,DAは0.4±0.02mVから0.7±0.05mV,5-HTは0.03±0.02mVから0.2±0.07mVであった。また投与実験では反対側脳室への投与では大きな変化がみられなかったが,プローブ側への投与ではNE・DA・5-HTの急激な変化を確認できた。<BR><BR>【考察】今回の結果から線条体,海馬,皮質におけるモノアミンの変化を確認することができた。DAは線条体,NEは皮質,5-HTは海馬での変化が比較的大きく,全体的に夜間の値が大きくなる傾向が見られた。これは,ラットは夜行性で夜に活動が多くなるためと考えられ,運動による変化が期待される。皮質でのデータには朝方に不明なピークが出現したが,これは測定部位が脳の表層であり出血の影響を受けた可能性が考えられる。今後,運動や学習と神経伝達物質の関係へと研究を発展させる時に考慮すべき点と考えられた。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】NEは不安や意欲,学習と関係があり,脳梗塞後遺症患者で低下すると言われている。DAは報酬に関与しており運動学習との関係が考えられる。5-HTは運動や痛みと関係しているほかに神経栄養因子としての働きも知られている。このようにモノアミンは運動や学習,機能回復に大きく関与しており,運動や行動との関係を明らかにすることは理学療法の発展に大きく貢献できると考えられる。今回の実験はそれらの基礎データを提供することになり理学療法学研究としての意義がある。
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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