人工膝関節置換術前後における重心加速度に注目した歩行分析の検討:小型三次元加速度計を用いて
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概要
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【目的】<BR>日々の臨床の中で歩行分析は観察者の主観に基づく場合が多く、客観的指標評価法はリハビリテーションにおいて機能評価の有力な指標となる。しかしながら、床反力計や三次元解析装置は実際の臨床現場で使用するには制限が多く広く浸透していない現状がある。近年、比較的安価であることや測定が簡便であること、被験者への拘束や実施環境の制限が少ないなどの理由から小型三次元加速度計を用いた歩行分析が臨床普及の観点から注目されている。そこで本研究では小型三次元加速度計を用いて人工膝関節置換術(以下TKA)前後における歩行時の重心加速度の変移に注目し検討したので報告する。<BR><BR>【方法】<BR>対象は当院TKA目的で入院された患者9名(男性2名、女性7名、平均年齢62.1±12.5歳、平均体重54.2±15kg、平均身長153.9±8.0cm、平均BMI 22.6±7.9)とした。診断名は変形性膝関節症6名、慢性関節リウマチ3名であった。小型三次元加速度計(ユニメック社 UM-JG6)を第3腰椎の高さでバンド固定し、術前、術後の重心加速度(前後、側方、垂直成分)を自由歩行にて計測した。術後は退院直前(術後平均22.1±5.6日)で計測した。また、歩行周期の同定にはフットスイッチ(ニッタ株式会社flexifoce)を用いた。サンプリング周波数は200Hzとし、アナログ解析ソフトWAS(ユニメック社)にて9Hzのローパスフィルターで処理し、実効値root mean square値(以下RMS値)を加え解析した。また、定常歩行状態から得られた加速度信号に対して自己相関分析を用いて自己相関係数(以下ACC)を算出した。統計解析にはPaired t-testを用い、5%未満を統計学的有意とした。<BR><BR>【説明と同意】<BR>ヘルシンキ宣言に基づき対象者には本研究の意義と目的、方法、予想される利益と不利益について十分な説明を行ない書面にて同意を得た。<BR><BR>【結果】<BR>ACCは前後(術前0.71±0.13、術後0.80±0.11)、垂直(術前0.75±0.21、術後0.88±0.09)方向と増加傾向が見られたが、有意差は認められなかった。側方(術前0.60±0.15、術後0.76±0.08 、P=0.02)方向のみ術後有意に大きかった。RMS値は前後(術前0.09±0.04、術後0.09±0.03)、側方(術前0.09±0.03、術後0.09±0.02)、垂直(術前0.11±0.04、術後0.11±0.03)方向ともにTKA前後の有意差を認めなかった。<BR><BR>【考察】ACCは値が大きいほど対称性に優れ、規則性のある歩行であることを示し、RMS値は値が大きいほど動揺性が大きい歩行を示すと報告とされている。ACCに関しては側方方向の値が術後有意に大きくなったことから、側方方向の重心加速度の規則性が有意に改善されたと示された。この理由としては加速度信号の波型をTKA前後で比較するとTKAにより術側膝関節の側方動揺が改善することで、初期接地における重心加速度変位の規則性が改善したことが大きな要因と考える。一方、RMS値において有意差を認めなかったことから、重心加速度の動揺性はTKA前後において有意な変化を認めないと示された。これは疼痛や下肢アライメントが改善しても、術前からの異常な運動パターンの習慣化が残存していることや急激なアライメントの変化で生じる姿勢制御機能の破錠、固定感覚受容器の機能低下が要因と考えられる。そのため、重心動揺性の観点から理学療法を行う際に、体幹運動を含めた歩容の改善や運動学習、感覚入力が重要であると考えられる。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>重心加速度はTKAにより側方の規則性は改善されるも、動揺性は変化しないことが推察された。加速度波形解析は時間的変化を比較できることから、歩行分析の簡便な評価方法の一つであると考えられる。今後の課題としてはTKA施行者に対して退院後を含めた長期の重心加速度の変移を研究する必要があると考える。
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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