上肢Closed Kinetic Chain Exerciseにおける肩甲骨周囲筋の筋電図学的検討:Low Rowと変法のLow Rowとの比較
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概要
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【目的】下肢の運動療法では、Closed Kinetic Chain Exercise(以下CKC Ex.)が一般的に導入されている。上肢においてもCKC Ex.の報告があり、肩甲骨周囲筋の同時収縮による協調性や筋力の回復に有用とされるが、その数は少ない。また近年、肩甲骨周囲筋は腱板機能や肩甲上腕リズムの破綻の原因として注目され、特に僧帽筋下部線維と前鋸筋は、外傷後や術後早期よりトレーニングが必要とされている。本研究ではこの2筋をターゲットとした上肢CKC Ex.であるLow Row(以下 LR)と、この変法であるアームスリング装着時のLow Row (以下 LRS)、およびボールを用いた不安定面でのLow Row(以下、LRB)における筋活動を調査し、術後早期から適応可能であるか、またLRS、LRBともLRと同等の効果が得られるかを筋電図学的に検討することを目的とした。<BR><BR>【方法】上肢に整形外科疾患の既往がない健常成人12名(男性6名、女性6名:平均年齢26.8歳)を対象とした。方法は立位、肩関節屈曲伸展0度にて、LRでは手掌を後方に向け母指球を固定した台の端に接触、LRSでは肩関節内旋位、肘関節90度、前腕回内外0度にてアームスリングを装着し、肘頭内側を固定した台の端に接触させた。LRBはソフティーボール(直径16cm;Valley社製)を使用しLRと同様の姿勢をとり、手掌をボールに接触させ壁との間で挟んだ。各々脊柱伸展、肩関節伸展、肩甲骨下制・内転にて5秒間最大努力で台またはボールを後方へ押し、このときの肩甲骨周囲筋の筋活動を測定した。各動作とも3回施行し、休憩は2分とした。表面筋電計はNoraxon社製Telemyo2400を用い、サンプリング周波数は1500Hzとした。被験筋は僧帽筋上部線維(UT)、中部線維(MT)、下部線維(LT)、三角筋後部線維(DP)、棘下筋(IF)、前鋸筋(SA)の6筋とし、得られた生波形はroot mean squareにて平滑化処理後、中間の3秒間の平均振幅を求め、各筋の最大収縮時の値で正規化(%MVC)した。統計学的分析には反復測定分散分析およびTukey多重比較検定を用い、有意水準5%未満とした。<BR><BR>【説明と同意】本研究は、東海大学医学部付属病院臨床研究審査委員部会(受付番号09R114号)定例委員会審査により承認された。尚、対象者には研究目的および研究方法を十分に説明し同意を得た。<BR><BR>【結果】%MVCは各筋LR、LRS、LRBの順に、UTでは12.55±7.06%、6.55±2.79%、13.49±5.67%でLRとLRS、LRSとLRBの間に有意差(p<0.01)を認めた。MTでは41.32±14.39%、35.04±18.92%、44.67±23.31%で有意差はなかった。LTでは32.06±14.38%、46.05±20.83%、24.49±11.99%、DPでは78.19±23.72%、34.66±17.66%、76.20±22.02%、IFでは31.72±7.33%、18.10±7.16%、31.54±8.06%でいずれもLRとLRS、LRSとLRBの間に有意差を認めた(p<0.01)。SAでは38.85±30.35%、30.97±19.27%、40.06±34.70%で有意差はなかった。<BR><BR>【考察】LT、SAの筋活動は3条件とも20%MVC以上であり、筋力増強Ex.として有効であると考える。しかしLTではLRSが他の2条件よりも有意に高く、SAでは3条件間に有意差はないため、この2筋をターゲットとした筋力増強の方法としてはLRSが最も効果的であると推察される。LRSにおいてLTが有意に高い筋活動を示した要因としては、DPの結果からアームスリングにより上肢のモーメントアームが短くなったことで、肩関節伸展よりも肩甲骨内転・下制が強調されたためと考える。IFの筋活動では、LRSのみ術後や外傷後に安全な筋活動レベルとされる20%MVC未満であり、IFの修復術後でも実施可能であることが示唆された。またLRSは他の2条件と比較してUTで有意に低い筋活動となった。これはアームスリングによって、上肢の重量による肩甲帯の下方への牽引力が軽減したためと考えられる。以上より、LRSは術後早期からの実施に加え、他の条件と比較して肩甲骨周囲筋のインバランスの原因とされるUTの筋活動を抑制し、LTのより効果的な筋力増強が可能であることが示唆された。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】LTやSAの筋力低下はインピンジメントや肩峰下腔の狭小化などとの関連性が注目されている。本研究は同筋の筋力増強Ex.としてCKCを用いた運動が有用であることが示された。特にLRSは術後早期からの適応が可能であることが示唆され、適切な肩甲骨の機能の獲得が期待される。
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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