片麻痺患者における椅座位からの立ち上がり動作と膝伸展筋力の関係
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概要
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【はじめに】<BR> 理学療法の対象は時代と共に変遷している.近年では,人口の高齢化に伴い脳卒中片麻痺患者においても体力低下を伴う症例が増加している.特に,抗重力メカニズムに関する筋力低下があるとゴールや機能予後に大きく影響を与える.抗重力筋群の強化として効果的な方法にスクワッティング法がある.スクワットの段階化が可能であれば評価および至適練習量の適応に役立つ.これまでCS‐30法などもあるが,患者ではハードルが高い.そこで椅座位からの立ち上がり動作によって下肢筋力の評価が可能か検討し,若干の所見を得たので報告する.<BR>【目的】<BR> 椅座位からの立ち上がりにおいて,座面の高さによる下肢筋力のグレーディングが可能か検討する.そのために,1.座面の高さを変えた場合の立ち上がり動作遂行に一定の法則があるか検討する.2.仮にその法則があるとした場合,その法則と下肢筋力との関連を検討する.今回の臨床試験は以上の目的で実施した.<BR>【方法】<BR> 対象は,回復期リハビリテーション病棟に入院する片麻痺患者で,男性13名,女性12名の計25名とした.年齢は67±13歳.身長は157.6±8.7cm.体重は55.5±8.2 kg.発症から測定までの日数は105±42日であった.椅座位からの立ち上がりの測定は,40cm・30cm・20cm・10cmそれぞれの高さの台で行った.上肢の補助を用いずに立ち上がり可能な最も低い座面高を判定し,立ち上がり不可能な患者の群を1群,40cmからの立ち上がりが可能な群を2群,同様に30cmを3群,20cmを4群,10cmを5群とした.膝伸展筋力の測定にはANIMA社製徒手筋力測定器μTas F‐1を使用した.測定肢位は端座位,膝関節90度屈曲位とし,膝関節裂隙から20cmの位置で麻痺側・非麻痺側共に各3回ずつ測定した.分析には,膝伸展筋力をトルク値に換算し,体重で除したもの(膝伸展筋力体重比:N・m/kg)を変数とした.<BR> 台の高さと膝伸展筋力体重比との関係については,Spearmanの順位相関係数を求めた.5群間ごとの膝伸展筋力体重比の比較に一元配置分散分析及び多重比較検定を用いた.統計学的有意水準を危険率5%とした.<BR>【説明と同意】<BR> 当院の入院患者で,計測および研究の趣旨説明を行い,同意の得られた者とした.<BR>【結果】<BR> 5群の人数の内訳は1群6名,2群3名,3群4名,4群5名,5群8名であった.各群において対象者の年齢・性別・身長・体重に有意差はなかった.<BR>各群の膝伸展筋力体重比(N・m/kg)の平均値は,非麻痺側は1・2・3・4・5群の順に0.6±0.16,1.1±0.39,1.3±0.25,1.3±0.22,1.4±0.49,麻痺側は0.2±0.17,0.5±0.10,0.6±0.24,0.9±0.30,1.1±0.34であった.<BR> 5群間ごと一元配置分散分析の結果は,非麻痺側・麻痺側共に優位の差がある結果となった(F=4.447,F‐11.023 p<0.05).その後の多重比較検定では非麻痺側が1‐5,麻痺側が1‐4,1‐5,2‐5で有意の差がみられ,それぞれ1群より高い値となった. <BR> 台の高さと膝伸展筋力体重比との関係は非麻痺側(r=0.632,p<0.01),麻痺側(r=0.824,p<0.01)と,共に正の相関を認めた. <BR>【考察】<BR> 結果のまとめ;1.座面の高さによる5つの階級にそれぞれ対象者が配置されたが,それぞれの階級に均等な配分ではない(N数が不足している).2.各階級毎にほぼ体重あたりの筋トルクは順番に配列している傾向が見られた. 3.N数不足ではあるが特に麻痺側膝伸展筋トルクと階級には一定の法則が成立すると考えられた.<BR>健常者における立ち上がり動作では,下肢筋力が最も重要な既定因子であると報告されている.今回,片麻痺患者において,台の高さと膝伸展筋力体重比との間に相関が認められた.よって,片麻痺患者においても立ち上がり動作には下肢筋力が有用な規定因子の一つであると言える.<BR> 5群間ごとの膝伸展筋力体重比の比較では,有意差の認められない群間もあり,現状では明確な段階付けは困難であった.その原因の一つとして,N数の不足が挙げられる.そのため,今後,対象者数を増やすことで,群間の有意差の有無が明確となれば,座面高による膝伸展筋力の段階付けの検討が可能と考えられる.<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 本研究により,片麻痺患者においても立ち上がり動作と下肢筋力の関連が示唆された.今後も継続して対象者数を増やし,段階付けが可能であるかを検討する.段階付けが可能となれば,今後適切な治療選択や効果判定が可能になる.さらに,移動動作能力やADL等との関連を検討していくことで,運動機能の予測を立てることも可能ではないかと考える示唆のあるpreliminary reportとして大いに価値があると考える.<BR>
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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