思春期特発性側弯症患者における成長過程での四肢長について
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概要
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【目的】脊柱側弯症患者における身体的特徴についてhumpやウエストライン、肩の高さ等体幹への記載は多数見られるものの、各年齢における四肢の特徴についての記載は散見されない。しかし、正確な検査や実際の理学療法を行っていく上で疾患の特性を把握することは重要となってくる。そこで今回、思春期特発性側弯症(以下AIS)患者における四肢長を求め、各年齢における国民標準値と比較し若干の知見を得たので報告する。<BR>【方法】対象は2004年10月から2009年8月の間に当院へ手術目的にて入院した脊柱側弯症患者621例中、術前四肢長測定が可能であったAIS女児150例とした。平均年齢14±2(11〜18)歳、平均身長155.6±6.7cm、平均体重44.9±6.4kg、平均BMI 18.5±2.1、平均初潮12歳8ヶ月、平均Cobb角60.1±14.4(36〜121)°であった。検討項目は身長、体重、上肢長、下肢長、Arm spanの5項目およびCobb角とした。身長、体重測定は市販機器を使用し、裸足衣類装着下にて0.5単位毎に測定した。四肢長測定には市販メジャーを使用し、上肢長は肩峰から中指先端までを、下肢長は上前腸骨棘から内果までを仰臥位にて、Arm spanは両肩関節外転90°、肘関節伸展0°、前腕回外位で壁に設置してあるメジャーを使用し前面での両中指先端間距離を立位にて測定した。上下肢長は左右測定し平均値を求めた。Cobb角は全脊柱レントゲンを使用し専門医が測定した。新・日本人の体力標準値(不昧堂出版、2000)から国民標準値を調査し、各年齢における成長割合を検討するため身長、体重、上肢長、下肢長、Arm spanの5項目についてAIS患者の値を各年齢における国民標準値で除した値を百分率(以下割合値)で示し、各年齢における国民標準値を100として平均値を比較した。初潮時期における成長割合を比較するため手術時での初潮有無により2群に分け各割合値を比較した。また、年齢と各割合値、さらにCobb角と各割合値との相関を求め回帰式を作成した。統計学的処理には初潮有無における比較にはMann-whitneyのU検定を、年齢、Cobb角と割合値の比較にはspearmanの符号付順位検定を行い、有意水準5%とした。<BR>【説明と同意】画像の使用および本研究において患者および可能な限り家族へ説明を行い、書面にて同意を得た。<BR>【結果】割合値平均では、国民標準値に対し身長は99.9±4.2%でほぼ同一であり、体重は90.4±12.2%で下回り、上肢長は102.6±5.6%、下肢長は102.0±5.7%、Arm spanは104.3±4.7%で上回る傾向がみられた。初潮有無における各割合値は、上肢長で初潮なし患者において有意に大きく、他の項目では有意差はみられなかった。年齢と各割合値は、上肢長=111.437-0.621×年齢、Arm span=113.079-0.62×年齢でともに弱い負の相関がみられ、またCobb角と各割合値では、身長=105.209-0.089×Cobb角、体重=104.057-0.228×Cobb角、上肢長=103.873-0.021×Cobb角、Arm span=105.728-0.024×Cobb角でともに弱い負の相関がみられ、他の項目では有意性はみられなかった。<BR>【考察】AIS患者は脊柱変形があるにも関わらず、同年齢女児とほぼ同一の身長割合値を示したことと、一般的に身長と同程度であるArm span割合値が長かったことから、本来なら身長が高くなる可能性があったと考えた。また大野らより日本人女性11-18歳平均BMIは20.1で、それに対し今回の対象者は平均18.5と低値を示し、体重割合値は低値を示した。さらに体重割合値低下はCobb角が増加するほど顕著に現れたため、脊柱変形のため内臓圧迫や栄養吸収不良等が生じ体重増加が起こりにくいのではないかと考えた。四肢長の上肢に長い傾向がみられ、特に初潮までに上肢の成長が大きかった。一般にCobb角の進行も成長期に生じるため、初潮前の成長は下肢よりも上肢、体幹で過剰に生じ、上肢長は長く、体幹においては筋肉等で抑制されることにより脊椎がまっすぐ成長出来ずCobb角の進行が生じるのではないかと考えた。以上から、脊柱変形や上肢長の延長により臨床において下肢胸腰部柔軟性検査として簡便で広く使用されているFFDはAIS患者に対し、経時的にCobb角の改善をみるためや柔軟性をみるための指標とならない可能性もあるのではないかと考えた。さらにCobb角と身長割合値との回帰式より、身長が同年齢児童と同等になるためにはCobb角が58.5°となり手術適応の40°をはるかに超える角度となる。AIS早期発見のためには、年齢とArm spanとの間に負の相関がみられたことから身長とArm spanの比較は専門家でなくてもAISを疑うためにも簡便にわかる指標の1つであると再認識した。<BR>【理学療法学研究としての意義】誰でも測定可能な身長とArm spanの比較はAIS早期発見のための一指標となり、AIS患者に対してFFDを用いる際には注意を要する。<BR>
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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