地域在住高齢者における転倒予測としての起居動作能力評価の有用性の検討
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概要
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【目的】起居動作能力の評価は身体機能を統合的に捉えるために有用とされている.一方,転倒と身体機能の関連性についてはさまざまな先行研究があるが,それらは下肢筋力やバランス能力との関連を検討したものが多い.本研究では,起居動作能力と転倒の関連性を明確にし,さらに転倒予測としての起居動作能力評価の有用性について検討することを目的とした.<BR>【方法】対象は,認知機能に問題がなく起居および移動動作が自立した地域在住高齢者24名(男性6名・女性18名,平均年齢82.0±9.0歳)とした.なお,対象者には本研究の主旨を説明し,同意を得て実施した.起居動作能力の指標として,起き上がり,床からの立ち上がり,5回連続椅子からの立ち上がりに要する時間を各2回測定し,その平均値を解析に用いた.転倒は,対象者の過去1年間の転倒経験の有無を調査し,転倒群11名と非転倒群13名に分類した.分析は,両群における年齢,身長,体重,各起居動作時間について対応のないt検討を用いて比較した.さらにその結果,有意差のあった変数を独立変数,転倒経験を従属変数とした判別分析(ステップワイズ法)を行い,両群の判別に寄与している因子について検討した.有意水準は5%未満とし,統計処理にはSPSS ver.12を使用した.<BR>【結果】両群における年齢,身長,体重について有意な差は認められなかった.各起居動作時間については,転倒群が非転倒群に比して有意に遅い値を示した(起き上がり・床からの立ち上がり:P<0.05,5回連続椅子からの立ち上がり:P<0.01).線形判別関数は,z=0.24×5回連続椅子からの立ち上がり所要時間-5.10(P<0.001)であった.また判別点は21.25秒であり,判別的中率は83.3%であった.<BR>【考察】起居動作能力は,これまで動作分析による定性的な評価が多くなされてきたが,近年では所要時間を測定する定量的な時間研究がいくつか報告されている.転倒群と非転倒群における比較検討の結果,各起居動作時間に有意な差が認められ,起居動作能力の低下は転倒のリスク要因のひとつであることが示された.さらに判別分析の結果,5回連続椅子からの立ち上がり所要時間が両群を判別する因子として抽出された.高齢者における椅子からの立ち上がり動作は,下肢筋力に加えバランス能力や体性感覚など多様な身体機能を反映しているため,5回連続椅子からの立ち上がり所要時間が転倒に関与する因子として採択されたものと考えられる.高齢者においては,日常生活に即した実用的な動作能力の評価から身体機能を捉えることが重要であると思われる.今回,起居動作能力,とくに5回連続椅子からの立ち上がり所要時間を用いて,転倒を予測できる可能性が示された.また両群の判別点は21.25秒であり,転倒を予測するうえでの有用な値となり得ることが示唆された.今後は,認知機能や社会的環境についても考慮した多角的な探究が必要である.
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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