地域在住高齢者におけるバランス能力と身体機能、生活空間、転倒不安感との関係:―大規模通所リハビリテーション施設における転倒予防対策の観点から―
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概要
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【目的】当施設は、定員120名の通所リハビリテーションを有する介護老人保健施設である.当施設における転倒予防対策として、転倒の危険性があると予測される利用者をリストアップし日々の歩行状況に合わせた対応を行っているが、現状として個々の行動状況を十分に把握しきれず転倒に至るケースが報告されている.転倒に至る因子としてバランス能力との関連が挙げられているが、当施設においてはBerg Balance Scale(以下、BBS)を用い、定期的なバランス評価を行っている.そこで今回、バランス能力と他の身体機能、生活空間、転倒不安感との関係を調査し、転倒予防に活かすための方策を検討した.<BR>【方法】対象は2008年4月以降に当施設通所リハビリテーションの利用を開始した利用者のうち、日常生活において歩行を主な移動手段としている73名.BBSの得点から一般的なcut off値とされている45点を基準に、45点以上を高値群38名(男性15名、女性23名、平均年齢77.3±10.2歳)、45点未満を低値群35名(男性18名、女性17名、平均年齢78.8±8.6歳)の2群に分類した.比較項目として当施設で実施している定期的な評価項目の中から膝伸展筋力、Functional Reach(以下、FR)、Timed Up and Go Test(以下、TUG)、Life-Space Assessment(以下、LSA)、Fall Efficacy Scale(以下、FES)を使用した.各々の評価項目は対応のないt検定を用い、2群間で比較した.なお、評価に関しては利用者の同意を得た上で実施した.<BR>【結果】膝伸展筋力(kg)は高値群21.2±7.6、低値群17.40±9.8、FR(cm)は高値群21.2±7.2、低値群14.5±9.8、TUG(sec)は高値群11.3±3.9、低値群25.1±22.9であった.また、LSAは高値群46.5±24.5、低値群27.3±19.8、FESは高値群28.0±5.9、低値群22.7±5.2であり、全項目において高値群が良い値を示し、特にFRおよびTUG(p<0.01)、LSAおよびFES(p<0.001)で有意差が認められた.<BR>【考察】膝伸展筋力を除く項目でBBSの高値群が低値群と比較して有意に良い値を示すことが確認された.特にLSA、FESはFRやTUGなどの身体的要素が反映されやすい項目と比較しても有意差が強く出ており、BBSの得点の低い者ほど転倒への不安感が大きく、それが結果として生活の活動範囲の狭小化にも影響しているものと考える.今後、転倒予防への取り組みとしてバランス能力に付加する形で、地域在住高齢者の日常生活における転倒不安感の軽減や、環境整備への関わりをさらに強化していく必要性が示唆された.
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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