慢性心不全患者に対する心臓リハビリテーションの効果に関する検討:―心収縮機能と運動機能に着目して―
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概要
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【目的】臨床において心臓リハビリテーション(以下心リハ)を実施した心不全患者では、心エコー上の心収縮機能の改善が得られなくても、ADLが改善し退院可能となる患者を少なからず経験する.本研究では、心不全患者に心リハ介入し、心収縮機能と運動機能の改善効果の関連について検討した.<BR>【対象】当院にて心リハを1ヶ月以上継続可能であったNYHA分類II~IIIの慢性心不全症例10名(男性7名、女性3名、年齢52.2±20.9歳).なお、対象症例に対して実施された心リハ及び検査測定は、全て医師による説明がなされ、同意が得られている.<BR>【方法】心リハは主にエルゴメーターによる有酸素運動、セラバンド及びダンベルを用いたレジスタンス運動で1回約60分、週2~5回のペースで行った.心リハ介入前後で、NYHA分類、心エコーによる左室駆出率(EF)、筋力測定器による筋力(Biceps、Quad)、心肺運動負荷テストによる最高酸素摂取量(V(dot)O<SUB>2</SUB>)、嫌気性代謝域値(AT)、肺機能(VC、FEV<SUB>1.0</SUB>、MVV)を測定し比較した.また、筋力、V(dot)O<SUB>2</SUB>、AT、肺機能の改善率と、EF改善率の相関について検討した.さらに、EFの実測値が5%以上改善した群をEF改善群、それ以外の群をEF維持群とし、両群間で筋力、V(dot)O<SUB>2</SUB>、AT、肺機能の改善率を比較検討した.統計解析は、前後比較は対応のあるT検定、相関関係はPearsonの2変量相関分析、両群間の比較ではMann-WhitneyのU検定を用い、有意水準は5%未満とした.<BR>【結果】心リハ介入前後において、NYHA分類(2.8±0.4→1.9±0.6;<I>P</I><0.01)、筋力(Biceps12.8±2.7→14.5±4.0kg;<I>P</I>=0.07、Quad47.8±24.5→53.7±24.0kg;<I>P</I><0.01)、V(dot)O<SUB>2</SUB>(14.8±4.6→17.8±5.7mL/kg/min;<I>P</I><0.01)、AT(0.744±0.398→0.903±0.460L/min;<I>P</I><0.05)、肺機能(VC2.7±0.8→3.3±1.3L;<I>P</I><0.05、FEV<SUB>1.0</SUB>1.70±0.69→2.09±0.97L;<I>P</I>=0.08、MVV54±25→72±38L/min;<I>P</I><0.05)は、総じて改善を認めた.一方、EFには有意な変化は認めなかった(28.6±16.9→32.6±15.7%;NS).また、EFの改善率と筋力、V(dot)O<SUB>2</SUB>、AT、肺機能の改善率には、有意な相関を認めなかった.EF改善群とEF維持群の比較でも、両群間で筋力、V(dot)O<SUB>2</SUB>、AT、肺機能の改善率に有意差は認めなかった.<BR>【考察】EF改善の有無に関わらず、心リハ後でNYHA分類、Quad、V(dot)O<SUB>2</SUB>、AT、VC、MVVは有意に改善した.この結果から、慢性心不全に対する心リハ効果は、必ずしも心収縮機能の改善によって得られるものではなく、むしろ骨格筋代謝改善を主体とした全身の呼吸代謝改善が主である可能性が示唆された.特に、日常生活での自覚症状が反映されやすいATの改善は、心収縮機能改善しなくともADL能力を向上させ、退院可能となる主要因と考えられた.
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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