心臓血管外科患者における術前後の腎機能の変化と術式との関連性
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概要
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【はじめに】<BR>心臓血管外科患者は、一般的に高血圧症、糖尿病、動脈硬化を合併している場合が多く、末梢血管変性により腎機能に影響を及ぼす危険性が高いと考える.冠動脈バイパス術(以下CABG)後の急性腎不全の発症についての報告は多い.この急性腎不全の原因として、血圧の低下や、酸素供給不足による腎虚血が挙げられている.急性腎不全を発症している患者に対する過剰な運動負荷は、更なる腎機能の悪化を招く恐れがある.そこで今回、心臓血管外科患者の腎機能を評価し、術式との関連性および、術前、術後での腎機能の比較を行ったので報告する.<BR>【研究方法】<BR>2007/9/1〜2008/8/31の1年間に当院心臓血管外科にて観血的治療を行った101名のうち、人工透析を行っている者、データの欠損のあった者を除く81名を対象とした.カルテによる後方視的調査にて以下について調査した.1、血清クレアチニン値から糸球体濾過量(以下GFR)推定式を用いて腎機能を評価し、数値に基づき5段階に分類した.術前のGFRの段階と術式の関連性について検討した.2、術前・術後(2週間)における段階の比較(改善、変化なし、悪化)を行った.なお、本研究はヘルシンキ宣言に基づいて実施した.<BR>【結果】<BR>術前にGFRが中等度以上低下している割合は、術式別にみるとCABGは75%、腹部大血管手術が40%、弁置換術が39%、末梢血管再建術が27%、その他の開心術では14%であり、CABGにおいて高い割合で腎機能の低下が認められた.術前後におけるGFRの段階の変化については、改善が7%、変化なしが71%、悪化が11%であった.段階が悪化した症例の内訳は末梢血管再建術が40%、腹部大血管手術が30%、弁置換術が20%、CABGが10%であった.<BR>【考察】<BR>先行研究でも腎機能低下は冠血管危険因子として認識されているように、CABGにおいて術前GFRが中等度以上低下している割合が最も高かった.しかし、術前後の比較において腎機能が悪化した術式の内訳は末梢血管再建術、腹部大血管手術が多く、CABGに限らず、術後一過性に腎機能悪化が生じる危険性があることがわかった.これもまた周術期における血行動態の変化による腎虚血と考えられる.当院では閉塞性動脈硬化症患者や腹部大動脈瘤患者は、術後2週間前後で退院を迎えることが多い.しかし、今回の調査により、この時期は術後合併症としての腎機能低下が持続している場合があり、退院にむけての運動負荷の漸増には注意が必要である.そこで、安全かつ効果的に理学療法を展開するためには、血圧の変動や血清クレアチニン値の推移を捉え、慎重に運動負荷量を調整する必要があると考える.
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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