下腿骨骨折術後にCRPSを呈した1症例:―試行錯誤した治療・理学療法―
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概要
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【はじめに】複合性局所疼痛症候群(CRPS)に対し有効な治療介入として、神経ブロックや投薬、行動分析学的および認知神経学的アプローチなどが報告されている.今回、下腿骨骨折術後に呈したCRPSが様々な阻害因子となり、治療・理学療法に難渋した症例を経験した.その病態把握から理学療法実施にあたり、試行錯誤した経過をまとめ報告する.なお、症例には本発表の趣旨を説明し、同意を得ている.<BR><BR>【症例】39歳、男性.診断名は右脛骨・腓骨骨幹部骨折、CRPS type1.現病歴は2008年3月交通事故にて受傷.他院へ救急搬送され骨接合術(MIS-Locking plate)施行.同年4月(術後3週)リハビリ継続目的にて当院へ転院.<BR><BR>【理学療法開始時所見】右下腿前面から足趾背面にかけてallodyniaを認め、特に下腿中央部に症状が強く、楕円状に頭尾・内外側方向に波及する.同部位には交感神経刺激症状(発汗異常、皮膚色変化)・循環障害も認め、患肢下垂にて著明となる.患肢免荷歩行を計画するも、患肢下垂位への恐怖心から導入は困難であり、車椅子への依存が高い.右足関節背屈制限(健側差-20°)を認め、足関節可動域訓練、特に他動運動に対し逃避反応を示す.<BR><BR>【診断的治療】右下腿前面のallodyniaに対し、同領域を支配する伏在神経や下腿中央部へのステロイド混入ブロック注射を行うも両者とも効果は認められなかった.次に、リドカインテープ(ペンレス<SUP>R</SUP>)を同部位皮膚表面に貼付するも接触性皮膚炎を生じ、使用中止を余儀なくされた.ノイロトロピンは奏効しなかったため3ヶ月で中止となった.仮骨形成不良を認めるが、Sudeck骨委縮は認めない.<BR><BR>【理学療法介入による変化と今後の展望】交感神経刺激症状・循環障害に対し、交代浴・患肢挙上位保持の徹底と荷重訓練を行えたことで、下垂位にしてもその徴候は消失した.荷重困難に対し、足底部への接触は可能で様々な触刺激を与えることができ、下垂位に対する恐怖心も徐々に消失し、1/3部分荷重訓練が可能となった.可動域訓練を愛護的に行うことを約束し、自動・他動運動ともに健側同等の足関節可動域を獲得した.これら3点の改善には術後6ヶ月を要したが、初期の段階からCRPSとして対応することの重要性、CRPSの特徴の一つとされる異常交感神経反射弓の消退には、個人差はあるだろうが長期を要することが示唆される.単純X線、CTにて仮骨形成は微々たるもので、術後7ヶ月で許可されている荷重量は体重の1/3までである.allodyniaに関しては、その程度は軽減したが範囲の狭小化は認められていない.介入方法として、知覚再教育を図ったが「痛いものは何をしても痛い.こんなことで良くなるのか」と負の効果を与えてしまった.allodyniaが改善されればPTB短下肢装具によりADLが拡大すると考える.allodyniaの改善に向けた介入方法を模索中であり、神経の可塑性に何らかの糸口があるのではないかと考えている.
- 公益社団法人 日本理学療法士協会の論文
公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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