肩関節挙上動作に関与する運動構成要素
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概要
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【はじめに】肩関節疾患症例は疼痛と共に可動域制限を主訴とすることが多いが、理学評価をする際、関節可動域テスト等の検査測定を行う前に挙上動作などの動作を観察し、正常を逸脱している肩関節運動構成要素について詳細に検査している.また、古くから挙上動作の動作解析に関する報告はされているが、その時の運動構成要素の関係を調査している報告は散見しない.そこで今回はレントゲン像を用い、自然下垂位から最大挙上したときの肩関節運動構成要素の関係について調査し、興味ある知見が得られたので報告する.<BR>【対象および方法】メディカルチェックで来院した39名(男18名、女11名、年齢25.77歳±3.77)の診察時に撮影したレントゲン像のうち上肢自然下垂位と最大挙上位の正面像を用いて、上腕骨外転角度(以下、ABD)と、前額面上での挙上動作の構成要素として、鎖骨の運動量(以下、鎖骨)、胸郭の床面からの高さの運動変化量(以下、胸郭)、最大挙上位での関節窩の上方回旋角度(以下、上方回旋)、鎖骨に対する関節窩の角度(以下、CL角)および関節窩に対する上腕骨の外転角度(以下、関節内ABD)について計測した.尚、全例上肢に既往はなく、非利き手側を測定し、Spearmanの順位相関係数検定を用いて危険率5%で検討した.<BR>【結果】それぞれの測定平均値は、ABDは167.78度±6.78、鎖骨は16.85度±7.85、胸骨は-8.1mm±15.52、CL角は123.72度±8.63、上方回旋は51.89度±6.20、関節内ABDは115.90度±7.28であり、ABDは上方回旋(rs=0.385)と関節内ABD(rs=0.573)で有意な相関が認められたが、鎖骨の影響も受ける傾向にあるものの、胸郭とCL角の影響は受けないことがわかった.また、各運動構成要素の関連は、上方回旋と関節内ABD(rs=-0.484)、上方回旋と鎖骨(rs=0.511)、胸郭と鎖骨(rs=-0.325)、CL角と鎖骨(rs=-0.460) で有意な相関が認められ、CL角と関節内ABDも関与する傾向があることがわかった.<BR>【考察】今回の結果から、挙上動作には肩甲骨の上方回旋と肩甲上腕関節の可動域が関与するという周知の事実が確認できたが、少なからず鎖骨の運動量も関与することが推測された.また、運動構成要素の関連性では、鎖骨の運動量が大きいと肩甲骨の上方回旋は大きくなり、胸郭は下方に変位する傾向になることがわかった.第43回理学療法学術大会での報告と合わせると、鎖骨の可動性が挙上動作に与える影響が大きく関与し、挙上動作時の胸郭は胸椎の伸展と胸骨・肋骨の骨盤方向への偏位が必要となり、胸郭全体の可動性と体幹の固定性が重要となると考えられる.臨床上、肩関節疾患患者の可動域獲得を目的とした理学療法を実施する際には肩甲上腕関節の可動域と共に肩甲骨の運動に着目することが多いが、肩甲骨の可動性を獲得するためには、鎖骨の可動域と共に、胸郭の下方への可動性とその機能の獲得も重要であることが示唆された.
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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