肩関節機能障害を呈する症例の特徴:―鎖骨および胸郭の運動について―
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概要
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【目的】肩関節の安定した運動には,腱板,および関節包機能,肩甲骨や鎖骨などの安定化機構が必要だが,臨床上,肩関節に機能障害が生じ,様々な代償機能によって肩関節を動かしている症例をしばしば見受ける.これまで腱板機能,肩甲骨の位置や動きなどの観点からの報告は多くなされているが,鎖骨や胸郭の動きを検討した報告は少ない.そこで本研究は,肩関節機能障害を呈し,上腕二頭筋の代償によって肩甲上腕関節を安定させ,上肢を挙上している症例における肩関節挙上運動に伴う鎖骨の運動,および胸郭の上下運動の特徴について検討することを目的とした.<BR><BR>【方法】対象は当院整形外科を受診し,動作時痛を有する肩関節周囲炎や腱板・関節唇損傷の症例で,初診時の評価において屈曲,もしくは外転徒手抵抗運動を行った際に代償運動として肩関節外旋を伴った症例19例(pt群:男性14名,女性5名,年齢40.4±15.7歳),およびメディカルチェックで来院し,上肢に愁訴のなかった39例(C群:男性18名,女性11名,年齢25.8±3.8歳)とした.各群において初診時に医師の指示により撮影したレントゲン像のうち,上肢下垂位と最大挙上位の前後像を用い,鎖骨運動角度,胸郭運動量を計測した.鎖骨運動角度は鎖骨近位端中点と遠位端中点を結んだ線と垂線のなす角度,胸郭運動量は両鎖骨近位端の中点とレントゲン像下端からの距離を計測し,下垂位から最大挙上時の変化量を算出してそれぞれの値とした.なお,鎖骨運動角度はpt群ではより愁訴の強い側,C群では非利き手側を計測し,研究に情報を利用することに同意を得て行った.鎖骨運動角度,および胸郭運動量をpt群とN群の2群間で対応のないt検定を用いて比較検討し,有意水準は5%未満とした.<BR><BR>【結果】鎖骨運動角度はpt群では21.3±7.4°,C群では16.8±7.9°となり,2群間で有意な差が認められた(p<0.05).また,胸骨運動量はpt群では4.2±12.3mm,C群では-8.1±15.5mmとなり,2群間で有意な差が認められた(p<0.01).<BR><BR>【考察】本研究pt群は徒手抵抗時に肩関節外旋を伴う症例であることから,上肢挙上時に上腕二頭筋を優位に作用させている症例であると考えられ,上腕二頭筋で代償している症例では愁訴のない例と比較して鎖骨を大きく挙上させ,胸郭を上方へシフトさせて上肢を挙上していることが示された.上腕二頭筋による代償の原因として,肩甲骨の可動性の低下,肩甲上腕関節における筋力低下や可動域の低下などの可能性が考えられ,これらを代償して上肢挙上の際に鎖骨を大きく動かし,胸郭を上方へシフトして関節窩を上方へ向けているのではないかと考えた.しかし,本研究は鎖骨,および胸郭の前額面上の動きからの検討であり,肩甲骨の可動性や肩甲上腕関節機能を含めた観点からの検討が今後の課題として考えられる.
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