頸髄不全麻痺患者の機能障害と歩行能力との関係:―デシジョンツリーを用いた解析―
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概要
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【目的】頸髄不全麻痺患者では、感覚障害・痙縮・姿勢保持困難・関節拘縮・筋力低下などの機能障害が歩行能力低下に影響していると考えられるが、独立歩行獲得に必要なそれぞれの機能改善の目標は明らかとなっていない.今回、頸髄不全麻痺患者における歩行補助具を一切使用しない独立歩行獲得に必要な機能とその目標を明らかにすることを目的として、機能障害と歩行能力との関係についてデシジョンツリーを用いた解析により検討した.<BR>【方法】対象は、2000年~2007年に当院で理学療法を実施した入院患者のうち、歩行練習を行ったFrankel分類C・Dの頸髄不全麻痺患者35例とした.本研究は埼玉医科大学倫理委員会の承認を得て実施した.対象患者の平均年齢(標準偏差)は55.9(15.4)歳、性別は男性33例・女性2例であり、歩行練習開始1ヶ月後の独立歩行獲得患者は20例(57.1%)であった.デシジョンツリーを用いた解析では、独立歩行獲得状況を従属変数、年齢・性別・歩行練習開始時期・膝関節伸展可動域・足関節背屈可動域・等速性膝伸展筋力・等速性膝屈曲筋力・下肢表在覚・下肢痙縮・座位バランス能力・立位バランス能力・立ち上がり動作能力を独立変数とした.統計学的解析には、SPSS16.0J for WindowsのClassification and Regression Tree(CRT)を用いた.<BR>【結果】デシジョンツリーを用いた解析により、麻痺が軽い側の等速性膝伸展筋力が0.63Nm/kg未満の8例(I群)、麻痺が軽い側の等速性膝伸展筋力が0.63Nm/kg以上で下肢痙縮を認める8例(II群)、麻痺が軽い側の等速性膝伸展筋力が0.63Nm/kg以上で下肢痙縮を認めない19例(III群)の3群に分類された.各群の独立歩行獲得患者は、I群で8例中0例、II群で8例中3例、III群で19例中17例であった.独立歩行獲得の予測基準を「麻痺が軽い側の等速性膝伸展筋力が0.63Nm/kg以上、かつ下肢痙縮を認めない」とした場合の正判別率は86%であった(感度:0.85、特異度:0.87).<BR>【考察】今回の結果から、頸髄不全麻痺患者の独立歩行獲得には麻痺が軽い側の等速性膝伸展筋力が改善すること(0.63Nm/kg以上)と麻痺が軽い側の下肢痙縮が改善すること(MAS:0)が重要であることが示唆され、機能改善の具体的な目標が明らかになったと考えられた.予測基準の正判別率は86%と良好であったが、痙縮を認める群でも独立歩行獲得する例がおり、歩行に影響する痙縮の評価やPTプログラムについて検討する必要があると考えられた.<BR>【まとめ】頸髄不全麻痺患者の独立歩行獲得を目的とした理学療法では、麻痺が軽い側の等速性膝伸展筋力が0.63Nm/kg以上、かつ麻痺が軽い側の下肢痙縮を認めないことが機能改善の目標となることが示唆された.理学療法場面での評価・プログラムについては今後の検討が必要と考えられた.
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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