人工膝関節全置換術後の下肢腫脹と関節可動域の関連について
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概要
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【目的】<BR>人工膝関節全置換術(以下TKA)後の患者では、術直後から術側下肢の腫脹が見られ、さらにその程度が大きいほど膝関節屈曲可動域(以下ROM)制限を伴う印象がある.そこで今回、TKA後患者の術側下肢の腫脹とROMの経過を詳細に調査し、二者の関係を明らかにする事を目的に臨床研究を行った.<BR><BR>【方法】<BR>対象は変形性膝関節症により、当センターにてTKAを施行した患者28名(男性6例、女性22例、平均年齢75.1±6.0歳、平均BMI26.4±2.9)の28肢.測定内容は大腿周径(膝蓋骨上縁より0cm上、5cm上、10cm上)と下腿最大周径、ROMとした.周径は膝関節の疼痛が増強しない範囲での最大伸展位で測定した.測定期間は術前と術後1日目、また術後2日目から術後21日目(当院クリニカルパス終了日)までは週3回とし、時間帯は午前8時から8時半の間とした.ROMの測定は、他動関節可動域とし、術前と術後の理学療法実施後に毎回測定した.腫脹の程度は、術後の周径を術前の周径で除し、手術前の周径に対する割合(周径増加率)を算出した.ROMは標準化するため各日のROMを術後21日目に獲得されたROMで除した(%ROM).腫脹とROMとの関係は、周径増加率の平均が最大となった日(以下ピーク日)の周径増加率と%ROMを順位相関係数を用いて検討.また、各日の%ROMの推移は対応のあるt検定を用いて検討した.危険率は5%未満とした.なお、研究にあたり対象者には研究内容を十分説明し同意を得た.<BR><BR>【結果】<BR>周径増加率は下肢の各部位全てにおいてピーク日は術後4日目でありそれ以降は減少した.術後4日目の周径増加率の平均は膝蓋骨上縁より10cm上で106.0±3.9%、5cm上で107.9±3.6%、0cm上で107.7±4.0%、下腿最大で105.9±4.5%であり、術前に比べ有意に増加していた(p<0.05).%ROMは術後2~4、4~7、7~9、9~14、14~18日目のそれぞれにおいて有意に増加していた(p<0.05).下肢の各部位における術後4日目の周径増加率と%ROMに有意な相関は認められなかった.<BR><BR>【考察】<BR>腫脹のピークを向かえる術後4日目において、腫脹の程度と膝関節ROMとの間に有意な相関は認められなかったことや、腫脹が増大傾向にある術後2~4日目にもROMが有意に改善していることから、腫脹の程度は膝関節ROMに直接影響を及ぼすものではないと考えられる.しかし、手術侵襲による疼痛だけでなく、下肢の腫脹そのものに対する不安が膝関節ROM制限因子になっている可能性もあり、今後の検討課題としたい.腫脹の傾向を踏まえながらも、術後早期における膝関節ROM制限に対しては腫脹の減少を待つだけではなく、疼痛に注意しながら積極的にアプローチしていく必要があると考える.
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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