歩行自立している脳卒中患者の歩行能力と心身機能の関連性についての検討
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概要
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【はじめに】当院では主に脳卒中患者に関わる事が多いが、日々の臨床場面で歩行の自立を許可するかどうかの判定に苦慮する事が多い.今回心身機能がどれくらい歩行自立に影響しているのか、歩行能力と心身機能の関連性について比較し、若干の知見を得たので以下に報告する.<BR><BR>【対象と方法】日常生活で歩行が自立している脳卒中患者で、本研究に同意して頂いた75名(平均年齢68.09歳±10.43歳、男性46名・女性29名、麻痺側は右50名、左25名).歩行能力の評価としてFunctional Reach Test(以下FR)、Functional Balance Scale(以下FBS)、Timed Up&Go Test(以下TUG)、10m歩行時間、心身機能の評価としてMini-Mental State Examination(以下MMSE)を施行し比較検討した.各評価の関連性について統計処理としてPearsonの相関係数を使用した(p<0.05).<BR><BR>【結果】各評価の平均はFR=21.16(±6.67)cm、FBS=46.89(±6.17)点、TUG=22.89(±12.82)秒、10m歩行時間=16.63(±10.34)秒、MMSE=24.63(±4.90)点.MMSEと歩行能力との関連性を見ていくと、MMSEが24点以上は48名でMMSE=27.63(±2.08)点、FR=22.30(±6.51)cm、FBS=47.25(±6.90)点、TUG=23.61(±14.49)秒、10m歩行時間=17.90(±11.70)秒.MMSEが23点以下は27名でMMSE=19.29(±3.79)点、FR=19.12(±6.56)cm、FBS=46.26(±6.34)点、TUG=21.59(±9.23)秒、10m歩行時間=14.38(±6.98)秒であり、MMSEが23点以下の方がFR・FBSは低く、TUGや10m歩行時間では速い傾向が見られた.また麻痺側との関係をみると、MMSEが23点以下の中で左片麻痺ではTUG・10m歩行時間に正の相関、FBSに負の相関を認め、MMSEの点数が低下するのに伴ってTUGや10m歩行時間は速く、FBSの値は高くなる傾向が見られ、右片麻痺では関連性はみられなかった.<BR><BR>【考察・まとめ】今回得られた歩行能力の結果から、歩行の自立に関した近年の先行研究と近似した値が得られ、歩行が自立している方の歩行能力を確認する事が出来た.また脳卒中患者は様々な感覚器官から適切に情報を受け取り、情報を統合したり環境の変化に応じ運動を調節する事が難しいと言われ、特に左片麻痺では高次脳機能との関連が深く、右片麻痺よりも日常生活動作が自立され難いとされている.今回左片麻痺の方が歩行能力の値が平均より速かった事は、歩行能力が記憶や注意・構成能力等の心身機能の低下を補っている事により自立しているのではないかと考えられた.今後も継続してデータ収集し、歩行が自立していない方との比較や麻痺側・性差・年齢との関連等様々な視点から検討していきたいと考える.
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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