等尺性股関節外転・伸展筋力,膝関節伸展筋力の筋力低下に関する一考察:―独歩可能者を対象として―
スポンサーリンク
概要
- 論文の詳細を見る
【目的】<BR> 欧米の研究では一般的に等尺性筋力は30歳代から定常もしくは低下し始め、50歳代からその低下の割合は高くなり、30歳代から80歳代までで約30~40%低下するとされる.<BR> 個別の筋についての加齢と筋力低下の関連を検討した研究は散見するが、幅広い年代層における検討は少ない.歩行をはじめとした緒動作においては膝伸展筋力だけでなく、歩行安定性に寄与するとされる股関節周囲筋の関与も大きく、個別の筋の筋力低下の傾向や水準を知ることは重要である.そこで今回は下肢筋力の中では比較的研究が進む膝伸展筋力に加え、股関節周囲筋筋力の年代ごとの変化を検討することを目的とした.<BR>【方法】<BR> 対象の取り込み基準は過去6ヶ月に1週間以上の臥床経験が無い独歩可能な、日常生活活動の自立したもの、骨・関節疾患、脳血管障害、神経・筋疾患の既往や認知症がないものとし、本研究の主旨に同意を得られた152名を対象とした.内訳は男性82名(平均年齢57.8±21.1歳、平均身長166.0±7.1cm、平均体重61.7±11.2kg)、女性70名(57.3±22.6歳、153.5±7.3cm、48.8±9.8kg)であった.測定は等尺性筋力測定装置μ-Tasを使用し、股関節外転、伸展、膝伸展筋力を約5秒間の最大努力により左右2回づつ測定し、その最大値を採用、左右の平均を筋力値とした.分析は年齢と各下肢筋力との関連をPearsonの相関係数を用いて検討し、20歳代の筋力値を100%とした各年代での低下率を計算し、筋力低下率として比較した.なお、本研究を実施する際には聖マリアンナ医科大学生命倫理委員会の承認を得た(承認番号第1313号).<BR>【結果】<BR> 年齢と各下肢筋力の相関係数rは股外転0.612、股伸展0.707、膝伸展0.694で関連を認めた.20歳代の下肢筋力値を100%とした筋力低下率は80歳代で股外転49.3%、股伸展60.5%、膝伸展65.6%であった.また股外転筋力は50歳代以降、股伸展筋力、膝伸展筋力は30歳第以降に年齢とともに直線的に低下する傾向があった.<BR>【考察】<BR> 股外転筋力が他の2筋より高齢まで保たれ、また低下率も低かった.今回の結果では従来報告されてきたような、ある年代を境に加速的に筋力が低下するという変化は認められなかった.中殿筋は筋組成のTypeII線維の構成比が最も低い.これは50歳以降で著明といわれているTypeII線維の脱落と筋力低下との間に何らかの因果関係があることを示唆すると考えられた.しかし、筋力低下の原因である筋量の低下は加齢に伴う生理的過程や身体活動量の低下などが混在し、今後、検討を重ねる必要があると思われた.
- 公益社団法人 日本理学療法士協会の論文
公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
- 療養型病院における廃用症候群の予後予測
- 髄腔内バクロフェン治療(ITB)後の理学療法:―歩行可能な症例に対する評価とアプローチ―
- 理学療法士の職域拡大としてのマネジメントについて:―美容・健康業界参入への可能性―
- 脳血管障害患者の歩行速度と麻痺側立脚後期の関連性:短下肢装具足継手の有無に着目して
- 健常者と脳血管障害片麻痺者の共同運動の特徴:―異なる姿勢におけるprimary torqueとsecondary torqueの検討―