筋侵害性モデルラットの若齢処置では慢性痛症を発症しなかった
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概要
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【目的】<BR>慢性的な痛みを有する患者、中でも運動器に由来した痛みを訴える患者は多く理学療法の対象となっている.しかし、その病態メカニズムは解明されておらず、メカニズムに即した治療には至っていない.臨床的に、慢性痛疾患であるCRPS type-Iなどでは6才以下の発症が少ないという報告があり、このような幼児期までの発症率の低さは、病態メカニズムと関わっていると考えられ、生後の発達過程における何らかの要因が発症に関与している可能性がある.本研究では、ラットの成長を追って侵害刺激に対する反応を観察し、また、我々が開発した筋侵害性慢性痛モデル動物の作製方法を用いて、幼若期および成熟期に処置を行い、生後発達の慢性痛への関わりを検討した.<BR>【方法】<BR> 本実験は愛知医科大学動物実験委員会の承認を得、国際疼痛学会の実験動物倫理指針に基づいて行った.実験はSD系雄性ラットを用い、生後3週から成長を追って経時的に各パラメータを測定した.パラメータとして足底へのvon Frey filaments(VFF)刺激に対する逃避反応回数、下腿および尾部での圧痛閾値、足底への熱刺激に対する反応潜時、下腿周囲径を測定した.筋侵害性モデル処置は、エーテル麻酔下にてLPSおよび高張食塩水の一側腓腹筋への投与により行った.3週齢処置群および9週齢処置群を作製し、また、それぞれのage-matched control群を作り、同様に上述各パラメータを測定した.さらに、3週齢正常群および9週齢正常群を作り、それぞれの週齢時点での反応性を比較した.<BR>【結果】<BR>正常群において、足底VFF刺激、下腿および尾部への圧痛刺激、および足底熱刺激に対する侵害逃避閾値は、9週齢に比べ3週齢では有意に低かった.VFF刺激への反応性は成長につれ低下し、生後9週以降では、生後16週と比較して有意な変化が見られなかった.筋侵害性モデル処置において、9週齢処置群では痛み行動亢進が処置後10週以上にわたり長期に持続した.一方、3週齢処置群では痛み行動亢進は持続せず、age-matched control群と同程度であった.<BR>【考察・まとめ】<BR>3週齢ラットでは侵害刺激に対する反応性が9週齢に比べて有意に高く、これは末梢のポリモーダル受容器は発達していると考えられることから、中枢神経系の生後発達の関与が考えられる.また、足底機械刺激に対する反応推移が生後9週以降で安定したことから、この刺激に関する神経系は生後9週でほぼ成熟したと考えられる.筋侵害性慢性痛モデル処置において、生後3週処置では生後9週処置とは異なり長期痛み行動亢進が認められず、この慢性痛モデルの発症には、3週齢において神経系などの未完成である部分が関与していることが示唆された.今後、発達過程により発症が異なる要因を確定していくことは、慢性痛メカニズム解明に大きく貢献すると考えられる.
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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