ギプス固定慢性痛モデルラットは交感神経系の異常を伴う
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概要
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【はじめに】<BR>末梢の組織傷害が治癒したにもかかわらず難治性かつ慢性的な痛みを呈する慢性痛症患者では、感覚系障害に加えて自律系障害を高頻度に伴う.この病態メカニズムの解明に向けた数多くの動物研究が行われているが、生体機能として自律系を長期にわたって捉えた報告は非常に少ない.本研究では、我々が開発した片側下肢不動化によるギプス固定慢性痛モデルラット(大道ら、2005年本大会にて発表)を用いて、自律神経機能を基礎活動及び反応性の双方から、覚醒下にて経時的に追跡した.<BR>【方法】<BR>本研究は国際疼痛学会の倫理委員会が定めたガイドラインに準拠し、愛知医科大学動物実験委員会の承認のもとに行った.ラット(SD系雄性、9-11週齡)を用いた.血圧送信機を体内留置する処置をした後に、体幹から一側下肢をギプス固定により2週間不動化するギプス固定慢性痛モデルを作製した.ギプス固定前から固定中、固定除去後10週にわたり、痛み行動の測定に加えて自律神経機能を覚醒下にて測定した.自律神経機能の指標として、テレメトリーシステムにより得られる血圧・心拍に加え、各変動の周波数解析から算出される周波数成分パワーを測定し、安静状態と低温曝露刺激(9±1°C、90分間)に対する反応を観察した.また病態時期におけるα受容体の関与を調べるために、非選択的α受容体遮断薬(phentolamine)を用いて血圧反応を測定した.<BR>【結果】<BR>2週間のギプス固定による片側下肢不動化により、ギプス固定除去後から処置部を越えて両側性かつ尾部にまで拡がる痛み行動が10週以上にわたり続くことを確認した.安静状態では、血圧・心拍ともにギプス固定中に有意な上昇が見られ、固定除去後痛み行動の亢進時には固定前よりも有意に低下した.各周波数成分のうち、末梢性α交感神経活動の指標とされるmiddle frequency(MF)成分は血圧と有意な相関を持って推移した.低温曝露刺激は血圧、MF成分、心拍ともに上昇させたが、この上昇反応はギプス固定中では固定前より有意に増大し、固定除去後では固定中ほど増大を示さなかった.固定除去後においてα受容体の関与を調べたところ、安静状態ではphentolamine投与による血圧低下は小さかったが、低温曝露時の反応に対してはphentolamine投与により血圧上昇を抑制した.<BR>【考察およびまとめ】<BR>本モデルラットの自律神経機能の基礎活動は、ギプス固定による不動化中にα受容体を介する交感神経活動の亢進状態が見られ、不動解除後痛み行動の亢進時期ではかえって交感神経活動が低下していることが示唆された.しかしα受容体を介する反応性は痛み行動の亢進時期においても認められた.本研究から、不動化、つまり動かさないことが及ぼす弊害として慢性痛症の発症とともに交感神経系の異常をもたらすことが示唆された.
- 公益社団法人 日本理学療法士協会の論文
公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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