片麻痺患者の骨盤への重錘負荷が下肢筋緊張に与える影響
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概要
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【目的】<BR> 脳卒中片麻痺患者の陽性症状には種々あるが、その中の一つに、痙縮がある.そこでADLに大きな影響を与える下肢の動きに着目し、歩行改善を目的に本研究を行った.我々が下肢を動かす場合には、骨盤を後傾位に固定する必要がある.そのため腹筋群の断続的な収縮が不可欠となるが、片麻痺患者はそれが困難な場合が多く、その代償として股関節周囲筋群の同時収縮を認めることがある.今回背臥位で重錘を骨盤に乗せ体幹や下肢を動かしてもらうことで骨盤後傾位での固定をつくり、股関節周囲の筋緊張が落とせれば下肢の機能改善、そして歩容改善につながるのではと考え分析したのでここに報告する.<BR><BR>【対象】<BR> 昭和63年に脳梗塞左片麻痺を呈した症例で、上肢・下肢および手指の随意性はそれぞれブルンストローム3・3・2、感覚は表在・深部とも問題なし.筋緊張は全体的に亢進しており、特に大腿四頭筋、下腿三頭筋は高度亢進を認めた.そのため、選択的な膝屈曲、足関節背屈は困難であった.歩行は杖及びプラスチック短下肢装具により屋外歩行自立しているが、患側骨盤を後方に引き、膝関節の伸展を常時保った歩行である.なお、症例には本研究に関する十分な説明と同意を得た.<BR><BR>【方法】<BR> 重錘負荷を施行した期間を重錘期、非実施の期間を非重錘期とし、重錘期を2週間、非重錘期を2週間、それを2度繰り返すよう設定しABABデザインにて実施した.重錘は7,5kgを用いた.背臥位にて上前腸骨棘上に重錘を置き、知覚循環を促すため両下肢の交互屈伸、体幹の回旋を約5分間行ってもらった.評価項目では、運動機能検査として最速10m歩行速度テスト、Time up and Go test(以下TUG)をそれぞれ3回ずつ行い、その平均値を出すこととし、左下肢の痙縮及び筋緊張の変化をアシュワーススケール(以下AS)にて判定した.<BR><BR>【結果及び考察】<BR> 治療開始前、第1回重錘期終了時、第1回非重錘期終了時、第2回重錘期終了時、第2回非重錘期終了時における最速10m歩行速度の平均値、TUGの平均値、ASの段階を記述する.最速10m歩行速度の平均値(1)13秒10 (2)13秒10 (3)13秒05 (4)11秒10 (5)11秒06、TUGの平均値は(1)17秒27 (2)16秒77 (3)16秒27 (4)13秒48 (5)12秒99、ASの段階は(1)3, (2) (3)2、(4)以降では1となった.結果として歩行速度、TUG、ASともに2回目の重錘期後に改善を認めた.また、膝関節において自動屈曲困難であったが90°~100°まで屈曲可能となった.改善の理由として重錘負荷により骨盤後傾が保たれ、それにより中枢部が安定したことで股関節周囲の同時収縮を必要としなくなったためであると考える.また、2回目に大きく変化した要因として、筋緊張の低下に伴い入手できる情報が増え、運動及び速度の調整が発達してきたからと考える.この結果、脳卒中の筋緊張亢進が痙縮以外の関与も認められると考える.
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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