伸張刺激による筋萎縮軽減効果:―1日に与える刺激量や時間が同じなら、1回よりも2回に分けた方が効果的である―
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概要
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【背景】除神経により骨格筋は萎縮するが、周期的伸張刺激(15分/日、2週間)を加えると筋萎縮は軽減される.この分子メカニズムには筋タンパク質合成経路の1分子であるAktが関与している(Agata、in press).しかし、どのぐらいの刺激量(時間、トルク、頻度)が筋萎縮軽減に効果的なのか分かっていない.そこで本研究では、刺激の頻度に着目し、1日の刺激時間を30分に統一し、刺激回数が1日1回と2回のどちらが筋萎縮軽減に効果的かを、組織学的、生化学的手法を用いて調べた.<BR>【方法】本実験は本学動物実験委員会の承認を得て行なっている.-実験1- 8週齢のWistar系雄性ラット(n=23)の左側の坐骨神経を切除した.これを、15分の伸張刺激を6時間の間隔をあけて1日2回与える群(15×2刺激群、8例)、30分の伸張刺激を1日1回与える群(30×1刺激群、8例)に分けた.また、神経切除を行った後、伸張刺激を加えない群を非刺激群(7例)とした.伸張刺激は、5秒間の足関節背屈トルク6 mN・mでの背屈刺激と5秒間の刺激を加えない時間を繰り返す、周期的伸張刺激とし、除神経術の翌日より毎日、13日間、ラットの左ヒラメ筋に対して行った.坐骨神経を切除してから14日目にヒラメ筋を採取し、凍結切片を作製し、H-E染色を施して、筋線維横断面積を測定した.-実験2- 8週齢のWistar系雄性ラット(n=38)の左側の坐骨神経を切除した.その1週間後に、ヒラメ筋に周期的伸張刺激を加えた.15分の伸張刺激を6時間の間隔をあけて1日2回行ったときの2回目の伸張刺激後と、30分1回目の伸張刺激後のヒラメ筋を採取し、伸張刺激後0から60分後のリン酸化Aktの割合をウェスタン・ブロット法によって測定し、Akt活性化の指標とした.<BR>【結果】-実験1- すべての伸張刺激群の筋線維断面積は、非刺激群に比べ有意に大きかった(p<0.05).15×2刺激群の平均筋線維断面積は1023±32μm<SUP>2</SUP>で、30×1刺激群(890±34μm<SUP>2</SUP>)に比べ有意に大きかった(p<0.05).-実験2- 15分間の伸張刺激を6時間の間隔をあけて1日2回行ったときの2回目の伸張刺激直後には、刺激前の約2.5倍に Aktのリン酸化が亢進していた(p<0.05).30分間の伸張刺激直後のAktのリン酸化の割合は刺激前と変わらなかった.<BR>【考察】1日の刺激時間は同じでも、1日1回で行うよりも、2回に分けて行うほうが、筋萎縮軽減効果が大きいことが判明した.我々は、すでに伸張刺激を15分間行ったとき刺激終了時にAktのリン酸化が亢進すること、その後30分以降には伸張刺激前のリン酸化レベルまで戻ることを報告している.今回、30分間の伸張刺激を与えた直後、すなわち刺激開始から30分後には、一旦亢進したリン酸化が刺激前の状態に戻っていたと考える.1日内に6時間あけて伸張刺激を与えたことにより、1日中に2回のリン酸化上昇を起こし、刺激回数による筋線維断面積の違いにつながったと考える.
- 公益社団法人 日本理学療法士協会の論文
公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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