高齢者における浴槽またぎ動作の動作特性:若年者との比較による検討
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概要
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【目的】要介護者の日常生活活動の中で入浴動作、特に浴槽移乗(またぎ)動作は困難な動作の一つである。入浴動作に対する理学療法として浴室環境整備は重要であるが、環境設定の指標となる動作特性についての検討は少ない。今回、座位またぎ動作に着目し、健常高齢者を対象に座位またぎ動作の動作特性を明らかにする目的で、種々のまたぎ高さ条件における下肢関節および体幹の運動パターンの変化を分析した。<BR><BR>【方法】対象は研究主旨の説明を受け参加に同意した、健常高齢者15名(男性6名,女性9名,平均年齢71歳:高齢群)および健常若年者10名(男性5名、女性5名、平均21歳:若年群)とした。両群の身長および体重に差はなかった。実験装置として、一般住宅で汎用性の高い0.75坪サイズの和洋折衷型浴室用浴槽を想定した計測用模擬浴槽を作成した。実験条件を、またぎ高さ550mm、450mm、350mm、250mmの4条件とし、計測用模擬浴槽に腰掛けた状態から左脚をlead脚としてまたぎ動作を開始し、続いて右脚をtrail脚として浴槽縁をまたぐ動作を行なわせた。座位またぎ動作時の動作特性として、下肢関節角度変化、体幹傾斜角度変化、体重心(COG)位置変動量を測定した。課題は各4試行ずつ行わせ、平均値を採用した。動作中の関節座標位置の計測には3次元動作解析装置VICON612(Vicon motion system社製)を赤外線カメラ(サンプリング周波数60Hz)6台に同期させて使用した。赤外線反射マーカーを両側の肩峰、股関節、膝関節、外果、第5中足骨、およびダミーとして上後腸骨棘に貼付した。また、各課題に対する難易度の主観的評価をvisual analog scale(VAS)を用いて計測した。高齢群と若年群との差の検定はWilcoxonの符号付順位検定を用いて行った。<BR><BR>【結果】VASによる主観評価で得られたまたぎ易い高さ条件は高齢群で350mm(下肢長比44±8%、下腿長比93±8%)、若年群で250mm(下肢長比30±2%、下腿長比64±4%)であった。下肢関節角度変化は股関節、膝関節ともに両群に有意差全ては見られなかった(p<0.05)。COG前後変動量では350mm以外のまたぎ難い高さにおいて高齢群の方が有意に小さかった(p<0.05)。また左右変動量は550mmを除くまたぎ高さにおいて高齢群の方が有意に小さかった(p<0.05)。体幹側屈角度変化では両群に有意差は見られなかったが、体幹前後傾の角度変化はまたぎ易い高さを除いたまたぎ条件で高齢群の方が有意に小さかった(p<0.05)。<BR><BR>【考察】座位またぎ動作では下肢挙上時に体幹が後方および側方に傾斜することでカウンターバランスをとる。今回の結果から、高齢者においては下肢挙上の際のCOG変動量が小さく、座位またぎ動作特性として、体幹の側方傾斜に比べ不安定になる前後方向の体幹傾斜変動を小さくする傾向がみられた。<BR><BR>
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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