通所介護利用者における移動能力と転倒および健康関連QOLの関係
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概要
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【はじめに】現在、転倒予防や筋力向上トレーニングなどの介護予防に対する取り組みは全国各地において展開されている.その中で高齢者における転倒と身体機能、運動能力に関する研究は数多く報告され、QOLに関する研究も年々増加してきている.そこで、我々は当施設に通所する利用者に対し、移動能力と転倒および健康関連QOLの関係を調査したので報告する.<BR>【対象】当施設に通所する要支援から要介護5までの143名であり、男性55名、女性88名、平均年齢77.9±8.2歳(46~93歳)であった.<BR>内訳は要支援が23名、要介護1が79名、要介護2が31名、要介護3が7名、要介護4が2名、要介護5が1名であった.<BR>【方法】健康関連QOLと転倒に関しては紙面調査を実施した.健康関連QOLとしてMOS Short-Form36-Item Health Survey(以下SF-36)を用い、転倒に関しては過去10年間および2年間の転倒有無、回数とした.施設内移動が歩行にて実施している利用者(以下歩行群)と車椅子利用者(以下車椅子群)に分け、歩行群には10m最大歩行所要時間(以下10m歩行)を計測した.尚、施設内で使用している補装具等はその使用を認めた.調査内容により、過去10年間および2年間それぞれを転倒有無の2群に分けた.SF-36の各項目を移動手段別と過去10年間および2年間の転倒経験で比較し、10m歩行を過去10年間および2年間の転倒経験で比較した.統計処理には、SF-36に対しMann-WhitneyのU検定を、10m歩行に対し対応のないt-検定を用い、有意水準を5%未満とした.<BR>【結果】歩行群121名、車椅子群22名、転倒経験は過去10年間108名、2年間74名であり、過去10年間の転倒回数は、1回27名、2回26名、3~4回22名、5~6回19名、7~9回3名、10回以上11名であった.SF-36において歩行群が車椅子群よりも身体機能(p=.0023)のみ有意に大きく、過去10年間において転倒無し群が有り群よりも、体の痛み(p=.0452)、活力(p=.0237)、社会生活機能(p=.001)、心の健康(p=.0019)で有意に大きかった.過去2年間の転倒経験では有意差が認められず、過去10年間および2年間の転倒経験と10m歩行においても有意差は認められなかった.<BR>【考察】近年生じた転倒より、過去10年間での転倒が健康関連QOLのいくつかの項目に関係しており、転倒が活動面に与える影響は少なく、心理面に影響を及ぼすことが示唆された.よって、前期高齢者においての転倒予防が重要であると考えられた.また、諸家の報告より高齢者における転倒と最大歩行速度の相関は周知するところだが、要介護認定の高齢者において有意差は認められず、年齢や疾病等の様々な因子が転倒に関連すると考えられ、今後の課題とされる.<BR>
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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