転倒の有無による体力および転倒恐怖感の差異について
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概要
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【はじめに】転倒発生の関連要因には身体面以外にも様々な要因が関与している。転倒すると転倒恐怖感が増大し、在宅生活を送る高齢者にとって活動制限の大きな要因となる。今回、転倒の有無による体力および転倒恐怖感の差異について検討したので若干の考察を加え報告する。<BR>【対象】対象は当センター(通所介護)の利用者41名(男性24名、女性17名)で、平均年齢は、73.0±8.6歳(54~91歳)であった。聞き取り調査から過去1年以内に転倒した経験の有無により転倒群と非転倒群に分類した。転倒群は21名(男性11名、女性10名、平均年齢72.0±8.3歳)、非転倒群は20名(男性13名、女性7名、平均年齢74.0±9.3歳)であった。<BR>【方法】1)転倒評価:転倒リスクの評価として、鈴木らによる転倒アセスメントスコア(FAS)を使用し、15項目を15点満点で評価した。また、転倒恐怖感の評価として日本語版Fall Efficacy Scale(FES)を使用した。これは13項目からなり130点満点となっている。<BR>2)体力評価:握力(GP)、開眼片足立ち(SOOF)、ファンクショナルリーチ(FR)、Timed Up & Go(TUG)、10m歩行速度(GS)、下肢筋力(MS)の6項目を実施した。統計学的分析は、t検定を用い、有意水準を5%未満とした。<BR>【結果】1)転倒評価:FAS、FESともに転倒群と非転倒群との群間比較において有意差がみられた。また、各群ともにFAS、FESとの間に有意な相関関係を示した。<BR>2)体力評価:群間比較においてTUG、GSでは有意差がみられたが、他の項目には有意差はみられなかった。<BR>3)転倒評価と体力評価の関連:各群ともにFAS、FESと体力評価との関連においては相関関係を示し、特に転倒群では有意な相関関係を示した。<BR>【考察】FAS、FESともに転倒群と非転倒群とに有意差がみられたことから、転倒群は転倒リスクが高いとともに転倒恐怖感が強いことが窺えた。FASとFESとの関係においても有意な相関関係を示したことから、転倒に対するリスクが高いと転倒恐怖感が強いという心理的影響が明らかとなった。<BR>体力評価においては、転倒群のTUG、GSのみに有意差をみとめたのは、TUG、GSは共に移動や位置の変化が求められていることが関与していると考える。このことから、TUG、GSは、転倒の予測に直結した評価といえる。Tinettiが提唱するように転倒恐怖感の表れから活動量の制限を来すため、体力を向上させ、転倒リスクを減少させるだけでなく、それらが転倒恐怖感の減少に繋げていく必要がある。今回の結果から、体力が低いと転倒しやすいことが明らかとなったが、転倒を予防していくためには単に筋力やバランスなどの体力面を向上させるだけでなく、実際の生活場面に直結した働きかけが必要であると考える。<BR>
- 公益社団法人 日本理学療法士協会の論文
公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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