スウェーデンにおける胸部術後理学療法について
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概要
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【目的】<BR>平成17年2月にスウェーデンにおいて約2週間の医療視察・研修を実施する機会を得ることができた。スェーデン国内の主要大学病院(カロリンスカ・ウプサラ・ルンド)で急性期呼吸器・循環器系リハビリテーションの現状を学び、理学療法士の役割について本邦との比較を含め若干の知見を得たので報告する。<BR>【背景】<BR>スウェーデンは日本の約1.2倍の国土に総人口約900万人(大阪府884万人)が住んでいる。PT数は約13000人(内協会会員約10000人)が国内に従事。PT養成は7つの国立大学で行われ、3年制で卒業と同時に資格が取得できる。卒後の大学院での博士課程教育も充実している。国民の税金負担は多大であるが、教育はほぼ無料で、医療の国民負担も非常に少なく教育・医療・福祉面での保障は厚い。医療は公的運営がほとんどで、縦割り的な役割分担が明確である。呼吸器・循環器の外科的手術は、ほとんどが医療圏の核となる主要大学病院で実施される。術後の平均在院日数は肺切除術で7日、CABG後で10~14日程度である。<BR>【PTの役割】<BR>大学病院では80~100人程度のPTが各部門に別れて所属している。THORAX部門に所属するPTは肺・心臓を中心とした胸部疾患全般のリハビリテーションを担当している。基本的に病棟単位での専属体制で勤務しており、ICU・病棟(外科・内科)・外来の担当に分かれる。周術期のPTの関わりは、基本的に外来または、手術前日に問診・オリエンテーションと排痰法指導を実施、術後は早期離床、吸入療法、排痰法、上肢ex等の理学療法を実施している。内容としては本邦とほぼ同様であった。手術後のクリティカルパスは特にないが、肺手術で翌日、心臓手術で3病日目に歩行開始で早期離床が計られる。それぞれの病室には個々の患者専用にハイバックのリラクゼーションチェアーがあり離床促進に大変有効な役割を果たしていた。スウェーデンもわが国同様、国内に呼吸療法士資格制度はなく、PTによる吸引操作、人工呼吸器設定の変更は法律上出来ないこととなっている。しかしながら、ネブライザーやMDIなどの服薬・吸入療法や術後DVT予防のための下肢弾性ストッキングの管理はPTが主体で関わって指導し実施していた。<BR>【まとめ】<BR>スウェーデンにおける大学病院の呼吸・循環系リハビリテーションは病棟単位での専任化や施設環境が充実しており、術後の早期離床が積極的に進められやすいようハード面で良好な環境が作られていた。理学療法的手法はほぼ同様であったが、吸入療法への積極的な関わりが見られ、PTによる多角的アプローチが効率的に進められていた。本邦でもPTの病棟専任化や専門性は徐々に進んできてはいるが、術後理学療法の専任化は早期離床や術後合併症の予防のために有効なシステムと考えられた。
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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