人工股関節置換術術後患者におけるトレッドミルトレーニングの効果:1症例に体重心加速度の自己相関分析を用いた検討
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概要
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【はじめに】Hesseら(2003)は,人工股関節置換術(THA)術後患者にトレッドミルトレーニング(TT)を行った結果,中殿筋の筋力や歩行時の筋放電量,左右遊脚相の時間的対称性が高まったと報告しているが,歩行の運動学的変化についての検討は不十分である.そこで今回,THA術後患者におけるTTの効果を,より運動学的視点から検証することを目的に,歩行時の体重心加速度を指標に検討を行った.<BR>【症例紹介】症例は56歳,女性.変形性股関節症に対して右THAを施行後,4日目よりT字杖にて屋内自立歩行可能となった.最初にデータを測定した術後10日目時点で,歩行時の左右動揺を認めていた.<BR>【方法】3軸加速度計を第3腰椎の高さに固定し,TT前の平地歩行,TT中(開始から15分までの5分毎),TT後の平地歩行,および翌日の平地歩行の体重心加速度(前後,側方,垂直成分)を測定した.データはサンプリング周波数1000Hzでコンピュータに取り込み,定常状態にある5秒間の波形を200Hzのローパスフィルタで処理後,自己相関分析を用いて左右立脚相の自己相関係数(ACC)を求めた.また,各歩行の1歩行周期の加速度波形を時間正規化後,同一グラフ上に描き,各歩行間で比較した.平地歩行は3回ずつ行い,その平均値を分析に用いた.<BR>【結果】ACCは,側方成分においてTT開始5分後0.46,10分後0.38,垂直成分においてTT開始直後0.74,5分後0.59と,TT前(側方成分0.27,垂直成分0.47)に比べ高い値を示した.TT開始10分後までは視覚的に左右動揺の軽減も認めたが,それ以降は症例が疲労を訴え,15分後のACCも各成分で低下していた.TT後の側方成分0.37,翌日の側方成分0.47,垂直成分0.65と,こちらもTT前より高いACCを示した.左立脚相での加速度波形は,TT中も大きな変化を認めなかった.<BR>【考察】自己相関分析は同一波形を重ね合わせ,時間をずらしていったときの波形の類似性を検討する手法で,左右脚の対称性や歩行周期ごとの対称性の比較が可能である.本研究では,ACCの値が1に近いほど左右立脚相の加速度波形に対称性があることを意味している.今回,TT中に左立脚相での加速度波形は大きく変化していなかったため,右立脚相での加速度が左立脚相の波形に近づいたことでACCが上昇したと考えられる.臨床上,THA術後患者が歩行時の外観を気にすることは多い.その点で,TTは歩行時の左右脚の対称性を即時的に高めるだけでなく,翌日までその効果が持続する有効なトレーニングであることが,運動学的視点からも示唆された.また, TT中の疲労に伴いACCが低下したことも考慮し,今後はさらに経時的な効果判定を重ねることで,TTの適切な実施時間を検討していく必要がある.
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公益社団法人 日本理学療法士協会 | 論文
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